神保町には多くの本屋が軒を連ねているが、販売店舗を持たない通販専門の事務所運営の古本屋があるのも特長のひとつ。 そのなかでも業界ナンバー1クラスの扶桑書房の東原武文さん。
目録販売の雄・扶桑書房さんへ
いざ出陣 !
テツヲ ば、ば、番長、今日はなんだかやけに緊張してるじゃないですか。いつものガルベスばりに不遜で傲慢な態度はどこにいったんですか!
ユキヲ 例えがわかりにくいよっ。そういうお前だって妙に神妙な面持ちじゃないか。
テツヲ そりゃそうですよ。だって今日の就職活動は憧れの扶桑書房さんですからっ!
ユキヲ というわけで、今回はアドリブックスが会いたかった古本屋、扶桑書房の東原さんに来ていただきました。扶桑さんといえば店舗は持たず、即売展での販売。そしてなんといっても目録が有名ですけど、どれぐらい前から作られているんですか?
東 原 商売を始めてちょうど40年ぐらい、第1号はたしか昭和48年だったかな。商品は全部雑誌だけで写真も載せた。当時、写真版の個人目録は珍しかったし、ほとんど "1冊1行" っていうスタイルだけど、俺はちょっとした解説も書き加えてね。たいした目録じゃないけど、何かに特化しなきゃいけないと思ったんだ。雑誌は市場でも安かったし、大学図書館も持っていないところが多かったから、わりと売れた。
こっちの目録はここ何年か7月に出してるんだけど、100部限定。ネットオークションで1万円ぐらいするらしいけど(笑)。15点しか載せてない。写真と解説を1ページずつ使うっていう構成で。
テツヲ うおおお! なんかものすごいものばっかりだ! 番長買って! ねえ、なんか買って!
ユキヲ じゃあ、この宮沢賢治の名刺を……って、買えるか!
東 原 それはとっくに売れたよ(笑)。目録が100部限定なのは、こういう品物を欲しいと思う人にしか送らないから。それを買える人は普通の目録に掲載されている品物は追わない。だけど高ければいいわけじゃなくて、広い範囲で様々な本を欲しいお客さんもいる。
大事なのはどんな本でも自分の力でちゃんと売るっていうことだよ。だから目録を見たらわかると思うけど、小特集は別にしても、全体のテーマになるような特集は組まないようにしてる。それが好きな人のためだけのものになってしまうのは面白くないからね。
古書店の目録に高値がつくのは、古本業界のカリスマ、弘文荘・反町茂雄以来か!? お客にとっては、この目録が届くことが嬉しいのでは !
同業者間の市場をメインに考えると
今は非常に厳しい状況だと思う。
ユキヲ これは年末の「一人展」の目録ですね。もうやらないんですか?
東 原 5回やったらやめるつもりだったんだけど、今年またやることにした。……もっとやらなきゃダメだなと思うところもあって。
ユキヲ それは率直に、現状が厳しいと感じる部分があるっていうことですか?
東 原 まあ、時代が変わったといえばそれまでだけど、経験値が生きないっていうか、今までずっと積み上げてきたことが崩れてきたとはっきり感じてるよ。これは自分が専門の近代文学に限らないことだろうけど、ある時代は市場でもみんなが同じものを追いかけてきた。定番というか、古本屋なら扱わなきゃいけないものとでもいうのか。
今は必ずしもそうじゃなくなっているのは、定番ものが本当に売れなくなっているからね。半分とか下手すると十分の一とかさ。だから取捨選択がシビアになっていくのは当然だし、俺も今までと同じようにやっているわけにはいかないんだけど、簡単に自分の領域を変えられるわけでもない。
インターネットのこともよくわからないし、同じ目録専門店でも今はほとんどデータ入稿でしょ。今どきパソコンも使えない目録屋なんて多分俺だけなんじゃないかな(笑)
。
テツヲ そういう状況にあって、今はどんな作業に取り組んでいるんですか?
東 原 本が売れるかどうかの一番の要因は、結局価格だよね。だから当たり前と言えばそれまでだけど、今は価格を丹念に見直している。売れないんだから昔とは変えざるを得ないよね。おかしいと思うかもしれないけど、ある時期まで古本屋は本当にそんなこと考えなくてよかったし、今でも "あの頃" のままの値段で通しているところだって沢山ある。
この話の流れからすると、後半は若い古本屋へのお説教モードだなと、戦々恐々なユキヲ……。
だけどさ、その一方でやっぱり良い物は追いかけたい。さっき「定番が売れなくなった」って言ったけど、それはある意味では古本屋がその価値を守ってこなかったともいえるんだよ。市場に出てもそれを買いたいと思う人が少なければ、必然的に落札価格は下がってしまう。だから自分が「これだ!」と思う価格で入札したときに、他の古本屋と競ったり、たとえ買えなかったりしても、それは悔しい反面すごく嬉しいとも感じるんだ。
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