神保町と水道橋の中間にある国語国文学専門書店、日本書房。ユキヲの風貌とは裏腹な真面目なお店!
学ランは封印して、
ミスター古本屋≠ノなる!
テツヲ ちょっとユキヲさん自身の商売の話も聞いておきましょうか。古本屋っていう印象はあんまりないけど。
ユキヲ そうなんだよ。ナビブラでも「神保町ミュージアム」みたいな真面目なコーナーには出してくれなかったし(笑)
テツヲ いま、面白い本とか扱っていきたいものとかありますか?
ユキヲ 最近は明治前半の本が楽しいね。『神保町ガイドブックVol.3』で本の歴史を紐解くような企画をやったんだけど、ちょうどその時代が混沌としているんだよ。江戸期を引きずりつつ近代化を進めている頃で、廃れるものと新しいものがものすごいスピードで展開している感じ。本の形態も使われている文字も定まっていない、すごく魅力的な時代なんだ。
テツヲ いま40歳でしたっけ?これから10年先の展望とかありますか?
ユキヲ もうすぐ41だよ。20代は古本屋としての単純な修行期間で、30代はこの先10年で実行することのための準備期間っていう感じだった。
で、これからはちょっとプロフェッショナルに戻るというか、古典の世界に深く潜ろうと思う。商売の方向としてはっきりしているのは、わかりやすく言うと、「高くて貴重な本を売っていく」ということだね。それでゆくゆくはミスター古本屋≠ニ呼ばれるような、名を残す本屋になりたい。
自分のところに来れば貴重な和本が必ずあるとか、この世に1冊しかない本を扱うとか、そういう功績を残したいんだよ。
テツヲ 「ミスター古本屋!」ちょっと意外だなあ。だけど、もしそういう人が間口を広げるための行動をする──例えばですけど、学ランを着るとかしたら最強じゃないですか!
ユキヲ 学ランはもう着ない! でも、本当にそう思う。貴重な本を扱うことと、古本好きを増やしていくことと、どっちにおいても功績を残せば、伝説的な古本屋さんになれるかな。この10年間に店以外のところでいろいろやってきたのは、その準備っていうかさ。それをやったのは反町茂雄さんが代表的かな。うん、反町さんは理想かもしれない。
テツヲ ユキヲさんの面白い、というか、これは説得力があるということだと思うけど、学ランとか着たりしながら、実は「和本」っていう、わかりやすい「本」のイメージとは一番離れたものを扱っているところですよ。オシャレな古本屋がオシャレな媒体と組むとか、そういうのは単なる商売じゃんとしか思わないもん。本自体のことは別にどうでもいいんでしょっていう。
ユキヲ 相変わらず、オシャレ古本屋が嫌いなの?
テツヲ 別に嫌いじゃないけど。僕が古本屋さんの言葉で一番感動したのは、「オシャレな古本なんかない!」ですよ。
和本から新刊まで幅広く扱う店内。源氏物語関連で数百冊はある書棚は、見ているだけでゲシュタルト崩壊≠オてしまう! 一見の価値あり!
何事もバランスが大事!
……で、ズバリ結婚のご予定は?
ユキヲ そのあたりについてはノーコメントだけど、でも間口を広げるっていうことには、「和本は本であること」を一般常識にしたいっていう想いもあるんだよ。美術品みたいなイメージが強いし、日本の本の歴史を辿っていくときに、なぜかグーテンベルクに行っちゃうんだけど、それが癪でさ。それとオレは和本も今の本も同じで、線引きする必要はないと思ってる。もちろん、取り扱い方の違いはあるけどね。
「和本を扱いたい」っていう古本屋も結構いるけど、すごく特別視している。もちろん希少性とかを含めた価値の差はあるにせよ、本はなんで存在するのか、記録とか鑑賞とか理由はいろいろあるけど、作ってきた人の気持ちや意思は普遍なんだよ。
こういう姿勢は、老舗の人にしてみれば「せっかく築き上げた価値を軽んじている」という風に見えているとは思う。もちろんそうじゃないことは知ってるつもりですけどね。
テツヲ じゃあ最後に、ユキヲさんの考える、古本屋に一番とって大切なことはなんですか?
ユキヲ たぶんテツヲと初めてちゃんとしゃべったときにも言ったけど、やっぱり「バランス」だよ。古本に対する愛が強すぎても、利潤を追求しすぎてもダメ。前者はこの時代にはやっていかれないし、後者は、商売としては継続できるのかもしれないけど、なんか好きではない(笑)。
まあ、だからテツヲは古本屋にはならないほうがいいんじゃない? 「こんなどうしようもない本を扱わなきゃいけないのか!」って、きっと苦しむことになるよ。
テツヲ そうですね、やめておきます!って、あれですか、就職活動のオチをつける感じですか。
ユキヲ でもどう回収するのよ。しかも今回いつもより長いだろ。オレなんか偉そうなこと言ってるし。
テツヲ 「ミスター古本屋にオレはなる!」とか、熱いこと言ってますよ。ところでユキヲさんは、相変わらず「古本屋は自然淘汰派」なんですか?
ユキヲ そう、テツヲにも何度も話したけど、この連載が始まるまでは完全な悲観論者だったんだよ。でも悠久堂の諏訪雅夫さんが、「書籍業界なんて、所詮は2兆円以下の産業でしかないのに、面白くて情熱的な人材が沢山いるのは不思議だ」と言っていて、本当にその通りでね。
利潤は追求するけど、「本が好きだから」「後生に残したいから」っていうモチベーションの高い人が集まっている。古本屋だって、この連載で多くの人に話を聞いてみたら「厳しいだろうけど」って、必ず「けど」って前置きしてから自分の目標を語り始める。
これからますます苦しくなるのは明らかなのにね。「みんな大丈夫か?」と思いつつ、でもそこに心を打たれたというか、人材的に悲観する要素はまったくないなと、考えを改めた部分があって、この連載をやって良かったと思うよ。
神保町は永久に不滅です! 古書店の皆様、取材協力ありがとうござました!
テツヲ そう言ってもらえると、僕もうれしいです。じゃあ本当に最後に、この質問でキレイに終えましょうか。ユキヲさん、ズバリ結婚のご予定は?
ユキヲ ねえよ!!!!!!
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