森川嘉一郎×立川志ら乃「おたく対談」 - ナビブラ神保町
2004年のヴェネチア・ビエンナーレで『おたく』展を展示

志ら乃さん:

わが母校である明治大学に、まんがとサブカルチャーの専門図書館ができるときいて、大変興味深かったんです。まずは、どのような経緯で実現に至ったのかを教えてください。

森川先生:

もともとは、2004年のヴェネチア・ビエンナーレの国際建築展に、私がコミッショナーとして参加したことに端を発しています。

志ら乃さん:

世界的にも有名なヴェネチアの芸術祭で、森川先生は「おたく」をテーマにした展示をされたそうですね。

森川先生:

はい。これまでにもおたく文化を構成する漫画やアニメ、ゲーム、フィギュアなどを、作品や商品、つまりモノとして展示する試みはされてきました。しかし私はむしろ、人格や価値観としての「おたく」を前面に出したかったので、おたくの人々が織りなす空間を再現しようとしました。出展参加して頂いた方々も、コミックマーケット準備会さん、海洋堂さん、原型師の大嶋優木さん、岡田斗司夫さんなど、「おたく」の世界の方々です。ちなみにポスターデザインは「あずまんが大王」の装幀などを手掛けられたよつばスタジオさんにお願いしました。

志ら乃さん:

うわ!私は「あずまんが大王」と古典落語の「粗忽長屋」をモチーフにした「そこつながや大王」という同人CDを出したことがあります。喋っているのは初音ミクです(笑)海外の方々からの日本館の反応はいかがでしたか?

森川先生:

おかげさまで関心を集めまして、日本館が一番良かったという声もたくさん頂きました。ビエンナーレでは各館内での作品撮影がおおむね自由にできるのですが、印象として、シャッターが押された回数は、他館と比べてもっとも多かったと思います。

志ら乃さん:

それはすごいですね!

森川先生:

ヴェネチアから引き上げたあとも、東京都写真美術館で再現展示をさせていただきました。しかし、その後にやっかいなことが生じまして。展示物の保存先が見つからないという事態になってしまったんです。

志ら乃さん:

ヴェネチア・ビアンナーレの出展物と聞けば引く手あまたな気がしますが・・・、なぜなのでしょう?

森川先生:

実際にいくつかの美術館から「欲しい」と言って頂いたのですが、4トントラック6台分という分量を伝えた途端に「入りきらない」と。日本の美術館の収蔵庫事情の厳しさを知ることになりました。

志ら乃さん:

なるほど・・・

『おたく展』の行先探しから生まれた漫画図書館構想

森川先生:

このままでは展示品をバラバラにせざるを得なくなるという危機感のもと、収蔵先を探そうと右往左往するなかで、"『おたく』展を一要素にして新しい常設施設が企画できるなら、設立支援の道があるかもしれない"との助言を受けたんですね。

志ら乃さん:

既存施設への寄贈ではなく、新しい常設施設をつくってしまおうと。

森川先生:

そうなんです。ただ、『おたく』展だけではとても常設的な施設に見合わない。そこで、ヴェネチアでの設営にも参加して下さったコミックマーケット準備会代表(当時)の米沢嘉博さんと、「現代マンガ図書館」館長の内記稔夫さんに改めてお会いし、両氏が管理されている蔵書を恒久的に保存・運用できるようなアーカイブ施設の設立が検討可能か、相談したのです。

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2004年ヴェネチア・ビエンナーレ
『おたく:人格=空間=都市』

おたくの個室、数十万人が集うコミックマーケット、美少女ポスターが溢れる秋葉原の様子などを、連続した箱庭として再現。


森川先生の著書
「趣都の誕生 萌える都市アキハバラ」
幻冬舎

冒頭から「定食の聖地」として神保町エリアが登場。都内だけでなく、横浜・大阪・広島・愛媛などのお店も紹介。今さんの定食愛が伝わります。

おたく本に囲まれるおたく達
対談が行われたのは、米沢嘉博記念図書館7階の事務室。貴重な漫画資料を背に、半笑いがとまらない志ら乃さん。

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