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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第四十九話『いつでも着替えられる状態にしておく』

「私、肌がつるっとした男のひとが、好きなんです。色白で、
あっさり系の」
北沢陽子が言った。
ここは、神田美土代町、MID STAND TOKYO内、
ホワイトカレーと焼酎のお店、『神田ゲレロ』。
この店を始めた、(神田プロレスを牽引する)根岸雅英に、
店名の由来を聞くと、
「昔、チャボ・ゲレロっていう、メキシコ系アメリカ人のレスラーが
いたんですよ。そこから『チャボ』って店の名をとったんで、
今度は、『ゲレロ』のほうをいただこうかなって」
と爽やかに笑った。
その不定期営業のお店に立つのが、陽子だった。

涼川小夜子は、カウンターに座って焼酎のロックを飲みながら、
陽子の男性の好みを聞いていた。
「肌がつるっとしているかどうかは、確かに、重要かも」
小夜子も同意した。
「最初に、肌を合わせたとき、一瞬で相性がわかるよね」
「私は、小夜子さんほど、経験があれだから、一瞬ではわからないけど」
陽子は氷を砕きながら答えた。
「陽子さん、他に好きなタイプって、何かないの?」
小夜子は、陽子にはなんでも気楽に聞くことができた。
彼女には不思議なオーラがある。
ふわっとひとの心を包み込む力を持ってる。
「嫌いなタイプはいくつか思いつくけど、
好きなタイプって、あんがい、考えたことなかったなあ……」
陽子は、遠くを見つめたあと、微笑んだ。

彼女は、サヴァビアン・ダンサーだ。
サヴァビアンショーは、煌びやかな衣装をまとった何人もの女性が踊るレビューのこと。
ラインダンスが圧巻だ。
陽子は、今も、浅草で舞台に立つ。
「とにかく、早着替えが大変なんですよ。
舞台袖には、着ていく順番に衣装が重ねてあるんです。
いちいちハンガーからとっていたのでは間に合わないから……」
「いつでも着られる状態にしておくってわけね」
「はい。そうです」

恋愛も同じかな、と小夜子は思う。
いつでも着替えられる状態にしておかないと、今の服(恋)を
脱ぎ捨てることができない。
先日出会った沢木のことを思い出す。
そういえば、彼の腕は、つるっとしていた。
雑誌やWEBのライターをしているという。
カウンターの上のスマホが、音を立てた。
見ると、沢木からのLINEだった。
「まさかとは思いますが、いま、神保町で飲んでますか?
よかったら、一杯、いかがですか?」
スタンプのクマが照れながら頭を下げている。
しばし、思いを巡らせる。

「ねえ、陽子さん」
「なんですか?」
「ここにひとり、今から男性、呼んでもいい?」
「ええ、もちろん、よろこんで。小夜子さんのお友達、ですか?」
「そうね、まだ一回しか会ったことはないけど。なんとなく、
陽子さんに会わせてみたくなった」
「うれしいです。ぜひ!」

沢木の唇は、厚い。
沢木の肩はがっしりしている。
そのくせ、お尻は、小さい。
彼はどんなキスをするんだろう……。
彼は、どんなふうに私を抱きしめるんだろう……。

LINEを返すと、
すぐ音が鳴った。
クマが喜んでクルクル回っているスタンプ。
小夜子は、思った。
「私は、いつだって着替える準備ができている」



ホワイトカレーと焼酎のお店「神田ゲレロ」

ホワイトカレーと焼酎のお店
「神田ゲレロ」

住所
神田美土代町3-4
MID STAND TOKYO 1F
営業
不定期営業(18:00〜22:00)
定休
不定休
※営業日の詳細は下記facebookにて
URL
店舗facebook

『神田美土代町、MID STAND TOKYO内、
ホワイトカレーと焼酎のお店、神田ゲレロで働く北沢陽子さんが持つ、安部礼司のステッカー』

陽子さんの瞳には、魔物が棲んでいる……。
いや、魔物ではなく、天使?
とにかくその瞳で見つめられたら、
石になってしまうのではないかと思う。
そうとうに魅力的なひとである。
彼女は小学生のときから応援団に入り、
ひとを応援するのが好きだったという。
その優しくもあったかい思いが、
レビューにもあふれているに違いない。
『神田ゲレロ』、不定期営業なので、
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