• グルメ部
    今柊二の「定食ホイホイ」
  • 読書部
    とみさわ昭仁の「古本“珍生”相談」
  • 文芸部
    ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」
  • グルメ部
    高山夫妻の「おふたり処」
  • ジャズ部
    DJ大塚広子の「神保町JAZZ」
    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第七十四話『悶々、ホルモン……何度も転がして』

「何にでも、表と裏があるんですよ」
料理人の河本が言った。
つぶらな瞳に、肉を焼き続けてきた矜持がキラリと浮かぶ。
「ホルモンは、しましまがある皮の部分が表、ぷりっぷりの脂の
部分が、裏なんです。まずは、表の皮から焼いてください。
パリっとね。裏の脂は、温めるくらいでちょうどいいんです」

涼川小夜子は、2019年9月26日にオープンした
北海道・十勝の生産者直営のホルモン焼き肉店、
『MONMOM(モンモン)』にいた。
一階が鉄板焼きで、二階が焼肉。
小夜子にとって二階での、“ひとり焼肉”は自分へのご褒美。
ここ『MONMOM』で使用しているお肉は、オリジナルブランドの
「十勝ハーブ牛」。
牛が成長に合わせて数種類のハーブを食べているので、
健康、体調管理ができている。
おかげで、臭みのない、美味しいホルモンになる。
他のお店でレバーが食べられなかったひとが、
ここなら大丈夫と絶賛しているのを、
小夜子は聴いたことがあった。

「裏返すタイミングは、ホルモンが、少し縮んで、脂身が
乳白色に変わったときです」
ホルモンの説明を聞いているはずなのに、
小夜子の下半身が、疼く。
『裏返す』『縮む』……そんなワードに、反応する。

(せっかちに、何度も裏返されるのは、好きじゃない……)
小夜子は、思う。
男は、それを「サービス」とでも思っているんだろうか。
あと少し、このまま続けてくれれば、果てることができるのに、
「え?」
急に、体位を変える。
いろんな角度から攻めていいのは、プロ野球の投手だけだ。
さまざまな球種で、バッターを攻略するのが仕事だから。

(私は、ひたすら同じ球で攻めてくれるほうが好き……。
またストレート? 速い、強い、重い。もう堪忍して、
ダメ……と思ったら、ふっと、内角、ギリギリを……。
突然沈む、スプリット……落ちる……ああ、落ちる……。
翻弄されること、それが大事。何度も転がされ、焼かれ、
肌の色がほんのり赤く色づいていく……)。

「はい、お肉です!」
目の前にホルモンを運んできた白い手。
野崎華だ。
マスク越しでも、美しい女性であることがわかる。
「小夜子さんの、お肉の食べっぷり、私、好きです」
華は、最近、ご多分に漏れず、『鬼滅』にハマった。
希代の天才剣士、時透無一郎が好きだという。
「華ちゃん、好きな男性ってどんなひと?」と
小夜子が尋ねると、無一郎とは違うタイプを話した。
「顔が濃くて、見かけも内面も、男らしいひと」。

じゅう……。
肉を、焼く。
この店の広報を担当する池田が、小夜子のテーブルに
やってくる。
池田は、大の神保町好きで、学生時代から小夜子の古書店に
通っていた。
「小夜子さん、いつもありがとうございます」
「池田さん、相変わらず、美味しいです、ここのお肉」
「牛は、何を食べているかで決まりますから」
そんな池田のひとことが、
「女は、どんな男とつき合っているかで変わりますから」
と言われているように、感じた。

十勝ハーブ牛ホルモン MONMOM

十勝ハーブ牛ホルモン MONMOM

住 所
神田神保町3-3-2 ジェイズタワー1・2F
URL
お店のHP

十勝ハーブ牛ホルモン MONMOM

ハラミは、見た目ではそうは見えないが、
実はホルモン。
横隔膜という希少部位。
新鮮なハラミが食べられるのは、
生産者と直結している
『MONMOM』だからこそ!
華さんは、この店に来るまでホルモンを
食べたことがなかったが
その美味しさにすっかりはまった。
十勝ハーブ牛の魅力ばかりではなく、
彼女の素敵な笑顔に出会うために
通うサラリーマン、急増中!