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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第八十四話『だんだん、じょうぶに、なりました』

昨晩、涼川小夜子を抱いた男は、
小夜子の身体をまさぐりながら、
ずっと、三島由紀夫の話をした。
金髪に無数のピアス、
外見や言動がチャラい感じなので、ギャップ萌えする。

「『ほめられた事』という作文が、好きなんだよぉ、
ミシマが小学生のときに書いた、作文」
男の長い中指が最感部に触れ、指ひらがゆっくりゆっくり廻る。
その動きに合わせて、湿り気はやがて、あふれる滴りと化す。
彼は三島の作文を諳んじる。
「ぼくは、一年のとき、50日くらい、休みました。
休むのはいやですが、ひどい病気で、なかなかいけません。
二年には、もう休むのはいやだと思いました。
からだを、できるだけ、つよくして、
だんだん、じょうぶに、なりました」
ああ、と小夜子は、声を漏らす。指ひらの動きは休まない。
「そして二年は、これまでに一度も、休みません。
1、2週間前に、せんせいが、ひらおかは、
休まなくて、えらいと、おほめになりました」
あああああ、小夜子は、果てた。

「ミシマはさ、ほめられるために、体を鍛えたんだ」

翌朝、小夜子は、澤口書店巌松堂ビル店を、
訪れた。
店長の村松優理が、忙しく働いている。
小夜子は、優理を見ると、いつも、
子鹿を連想する。
俊敏に快活に動き、
愛くるしい瞳をいつもキラキラさせている、優理。

「小夜子さん、なんだか、いいことありました?」
「え? なんで?」
「頬がさくら色です」

澤口書店は、神保町古書街に、3つの店舗を構える老舗だ。
『澤口書店 東京古書店』
『澤口書店 神保町店』
そして、ここ
『澤口書店 巌松堂ビル店』。
それらは、まるで、
クリストファー・ノーラン監督の『バットマン3部作』のように、
それぞれが独立し、でも、共有する世界観に包まれている。
世代やジャンルを問わない豊富な品揃え、さらにやすらぎの空間を
創造している。
仕入れの量が、ものすごい。
小夜子がやっている古書店の比ではない。
それらの仕分けや入力作業だけでも、優理の仕事量の多さは
容易に想像がついた。

さらに、澤口書店は、
神保町の街全体の活性化にも力を入れるべく、
デザイナー後藤英臣のチカラを借りて、
「神保町お散歩ガイド」というSNSを
立ち上げた。

利他という言葉が頭に浮かぶ。
自分の利益だけ追い求めても、世界はよくなっていかない。

「そういえば、優理さんって、どんな男性が好みなの?」
小夜子が聞くと、彼女は答えた。
「チャラいひと、かな」

「澤口書店 巌松堂ビル店」

「澤口書店 巌松堂ビル店」

URL
「澤口書店 巌松堂ビル店」

HSTチャンネル

優理さんは、本が好き。
本の匂い、本の手触りを、大切にしている。
澄んだ瞳は、いつもクルクルと動き、
新しいこと、素敵なものを、
探しているようだ。
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