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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第九十一話『あなたの、頑丈な、チューブが、私を、変える』

涼川小夜子は、この秋、
ある楽器を習うことにした。
チェロ…。
人間の声に近いとされる、胸に響く重低音。
小夜子の中で、最も官能的な楽器だった。

習い事には、形から。
チェロを買えない代わりに、教室に通うための
バッグを購入しようと思う。

向かった先は、神保町の『ONNON(オンアンドオン)』。
カジュアルバッグブランドとして、2015年10月に誕生した、
小夜子が大好きなバックパックを有するショップ。
香港に旅したとき、その人気ぶりに驚いた。
日本上陸店が、まさか、ここ神保町とは!

お店にいたのは、ヤマシタさん。
九州、宮崎市出身の彼女は、ふわっとした優しくも美しい笑顔で
迎えてくれた。

ONNONのバックパックの最大の特徴が、
「X-ストラップシステム」。
ストラップが、取り外しできるので、
好きな色の組み合わせが楽しめたり、
ダメージを起こしたときには、交換もできる。

「わたしは……黄色とネイビーのツートンが好きです」
ヤマシタさんは、声も可愛い。
小夜子は、一気にヤマシタさんを好きになる。

小夜子は、想像する…。
まだ見ぬ、チェロの先生。
長い指でつま弾く弦の揺れ、振動、ゆらぎ。
背が高く、きっと、長い足で楽器を挟み込む。
女性を抱くように、チェロを抱く、先生。
背後から、抱かれ、音を、合わせる…。
「ダメだね、はずれてるよ……音。ここは、こうして、
おさえないと…」
先生の甘い男の匂いが鼻孔をくすぐり…。
「あああ」
思わず、息がもれる…。

「涼川さん? 涼川…さん!?」
ヤマシタさんが、小夜子をのぞき込む。
「あ、ああ、ごめんなさい、ちょっと、妄想を…」

「このバックパックもいいんですが、こっちの、
AIR DAY TOTE (S)も、おすすめですよ…」
店内に飾ってあったトートバックを見せてくれる。

「3つの、使い方が可能なんです、
トートバッグの機能が、ひとつ、
あとは、バックパックとして背負うことも可能です。
また、同色の取り外し可能なショルダーベルトも付属していて、
ななめがけも、OK!3WAY!」

3つ…。
3つの、PLAY。

小夜子の身体が熱くなる…。

ヤマシタさんが、耳元でつぶやく。
「我が製品は、頑丈なチューブで支えられています。
チューブは……頑丈でないと……みんなが不可能と思うことを可能にする、
“Make impossible possible”…大事ですね」。

カジュアルバッグブランド ONNON(オンアンドオン)

カジュアルバッグブランド ONNON(オンアンドオン)

URL
お店のHP

『バックパックを抱く、ONNON(オンアンドオン)の
ヤマシタさん』

ヤマシタさんの愛くるしい雰囲気は、
どこから来るのだろう…。
彼女の好きな男性のタイプは、
「優しいひと、大きな声を出さないひと」。
ヤマシタさんと一緒に、バックパックを背負って、
ハイキングできたら……全ての場所が楽園になるだろう。
『ONNON(オンアンドオン)』を支える、
箱豊製函(株)の寺村智子さん、寺村征大さんが、ヤマシタさんを、
優しく見守る。