• グルメ部
    今柊二の「定食ホイホイ」
  • 読書部
    とみさわ昭仁の「古本“珍生”相談」
  • 文芸部
    ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」
  • グルメ部
    高山夫妻の「おふたり処」
  • ジャズ部
    DJ大塚広子の「神保町JAZZ」
    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

九十二話『ハートスナイパーは、ローズのつぼみを隠している』

「人生は、宝さがしだと思います。
そして、このお店も、宝さがしだと、
思っていただけたら…」

横山絵里子が、涼やかな声でそう言うのを、
聴いていた…。

今、涼川小夜子は、神保町の路地裏に突如出現する
“おもちゃ箱”の中にいる。
そこは、CANDY BOUQUET (キャンディーブーケ)。
その名のとおり、
キャンディーやチョコレート、ラムネやゼリーが咲いたブーケが
飾られている。
プレゼントに、最適。
長く持つし、水を替える手間もいらない。
心を込めて、オーダーに対応した世界にひとつだけのブーケを
作ってくれる。

しかもこのお店は、日本で初めてアメリカのキャンディーブーケを紹介した、
Candy Bouquet International社のフランチャイジー。
お菓子の成分、賞味期限、原産国を明示。
感覚だけではない高品質な商品の提供に余念がない。
信頼の証、ロゴマークの中心には「キャンディーブーケ」が咲いている。

「いらっしゃい、小夜子サン」
店長の陳 英が、満面の笑みで小夜子を迎える。
陳は、24歳のイケメンの息子さんを持つ母でもある。

「千代田区役所10階でやっている『桜日和』っていうカフェが、
今度、バーも始めたので、開店祝いに、ブーケ、贈ろうかなぁって」
小夜子が言うと、
「いいですね!きっと喜んでもらえますよ!!」
と、販売促進部の絵里子が、笑顔で言った。
小夜子は、絵里子の顔が、好きだった。
澄んだ栗色の瞳。美しい鼻(鼻に関して、小夜子の好みはうるさい)、
ひとをホッとさせる豊かな表情。
小夜子は、絵里子の話す言葉が、好きだった。
言葉を選ぶセンスが、並外れて素敵。
きっと心の奥底の引き出しには、たくさんの珠玉の言葉たちが
眠っているに違いない。
それを全部、見てみたい!
そんな衝動に駆られる。

小夜子は、絵里子の綺麗で白い横顔を見ながら
我が身を恥じる。
「ずいぶん、私は汚れてしまった…」
ゆうべも、ハートスナイパーした男性に、ブーケのつぼみを
触られた。

「これ、好きかも……、これを紫色にアレンジできますか?」
小夜子が指をさしたブーケ。
その名前を見て、驚く。
『ハートスナイパー』。

ローズのつぼみは、包みに守られたチョコで、できていた。

店内の大きなクリスマスツリーが、
キラキラしている。
“おもちゃ箱”に、宝物があった。
それは……陳と絵里子の、嘘がない笑顔。
早く、私も嘘がない世界の住人になりたい。
小夜子は、そう思いながら、そっと、ブーケのつぼみに、触れてみた。

絵里子が好きだという童話『チョコレート工場の秘密』で、
チャーリー少年が手にするゴールデンチケットが、この店にきっと、ある。
小夜子は、そう、確信した。

CANDY BOUQUET(キャンディーブーケ)

CANDY BOUQUET
(キャンディーブーケ)

URL
お店のHP

『キャンディーブーケで、ハートスナイパーを抱える陳さん、店のディスプレイを指さす絵里子さん』

陳店長の、好きな男性のタイプは「マッチョな男性」。
来年20周年を迎える店を、守っている。
それにしても、『キャンディーブーケ』のブーケは、
ひとを笑顔にする。
キャンディーやチョコレート、バルーンにリボン、セロファン。
色が幸せを運んでくる。
横山絵里子さんは、ディスプレイ全般を担う、もはやアーティスト。
聞くところによれば、白山通り沿いの文化産業信用組合のビルの右側、
そのディスプレイも絵里子さん作だとか。
センスが、素晴らしい!
ぜひ、ご覧ください。
そして、神保町の“おもちゃ箱”、キャンディーブーケに
ぜひ、ご来店ください!!