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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

九十参話『かきまわしたり、ときに刺したり、またかきまわしたり…』

カラン、カランと、氷がまわる。
グラスの中で…。
優しく、静かに、でも、的確に…。
バーテンダーは、長い柄のスプーンをまわす。
スプーンの反対側は、フォーク。
真ん中の柄の部分は、螺旋状にねじ曲がっている。
ステアしやすくするためだと聞いた。
ステア……軽く、かき混ぜること。

美味しいカクテルがつくれる男性バーテンダーは、
100%、女性の扱いがうまい、
涼川小夜子は、そう思う。
「私は、ゆうべも、軽く、かき混ぜられた…何度も、何度も、
硬いスプーンで…」

ここは、千代田区役所10階食堂フロアにある
カフェ&バー「桜日和」。
カフェは、大人気。
区内で焙煎している珈琲豆を使用したハンドドリップコーヒーや、
区内レストランでつくられた焼き菓子などを販売している。

今年10月からバーも開店!
店を運営するのは、小夜子が大好きな、
山森彩香。
千代田区を紹介するPR誌『あるまっぷCHIYODA』
の編集長でもある彼女は、
赤いチェックのユニフォームに身をまとい、
ときどき、店に立つ。

小夜子がちょっと逢わないうちに、
彩香は、進化・成長していた。
事業構想大学院大学に在学。
都市部のメンタルヘルスケアと地方連携をテーマに
日夜、レポートやプレゼンに追われる日々を送りながら、 数々の仕事をこなす。

そんな彼女と「桜日和」の運営を担うパートナー、
それが今、小夜子の目の前でカクテルをつくる男、
植草遼大。
優しい瞳の奥に、鮮やかで鋭い光が見える。
販売コーディネーターの肩書を持つ彼の雰囲気は、
謎に包まれている。
彼は、幼い頃から料理をするのが、好きだった。
「遼大のつくるチャーハンは美味しいねえ」
母に言われたひとことが、うれしかった。
寿司割烹から料理人修行を始め、バーテンダーも経験。
今では、飲食店の立ち上がりから人材育成、店舗管理など、
いっさいを任されることが多いという。

小夜子は、聞いたことがある。
「料理や、カクテル、同じ素材を使うのに、
どうして、うまいひとは、うまいし、ダメなひとはダメなの?」
遼大は、間髪入れずに、こう答える。
「すべては、タイミングだと思っています」
タイミング…。
「火をいつ入れ、いつ止めるか、調味料を入れるのもタイミングが大事、
カクテルも、氷の溶け具合を見て、いつお酒を入れるか…決める。
もしかしたら…」
そこで、遼大は、小夜子を見た。
「人間の出会いも、タイミングだけかもしれないって思います」
ドキッとした。タイミング…。
なぜ、5年前でも、5年後でもなく、今、このひとに逢ったか…。

遼大のつくるジントニックは、世界一だと思っている。

遼大に聞いてみた。
「彩香ちゃんって、どんな女性?」
またしても、遼大は即答する。
「芯が強くて、生き方に一貫性があって、決して
まわりに流されないひとですね」

カラン……また、氷が、溶けた。

桜日和

桜日和

URL
お店のHP

『クラフトジン「Bath Lab Gin」を持つ山森彩香さん』

東京羽田発
奥多摩の森林と都心を繋ぐ
新しいクラフトジン「Bath Lab Gin(バスラボジン)」。

「桜日和」のバーは、美味しいお酒と、名物のもつ煮込みで
連日、にぎわっている。
とにかく、夜景が素晴らしい!
知る人ぞ知る、隠れスペシャルスポットだ。
仕事帰りに、ぜひ、一杯いかがですか?
営業は、
17:00〜20:00(19:30 L.O.)です。
ドリンク1杯と選べるおつまみ2品の
ちょい飲み1,000円セットが大人気!
運が良ければ、彩香さん、遼大さんに逢えるかも!