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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第九十七話『手でやる? それとも道具を使う?』』(ジェオ)

bird’s eye view
いわゆる……鳥瞰図。

そう、今、涼川小夜子は、神保町で30年以上、
地図を制作している(株)ジェオに
向かっている……。

小夜子は、自らが店主を務める古書店の周年記念に、
神保町の地図をあしらったクリアファイルを
作ろうと、考えた。

全国、いや、海外からも注文が絶えない地図製作の専門店が
神保町にあったのだ。

(株)ジェオの代表取締役は、
若き貴公子の風情を感じる、蕪木貴之。
そして、専務取締役が、貴之の母、ふみ子。


上品な二人の前で、小夜子は、しばし、たじろぐ。
壁には、一面、鳥瞰図。
ちなみに、鳥瞰図とは、読んで字のごとく、
空を飛ぶ鳥の視点から地上を見おろしたように描いた図のこと。
建物や山などの立体感や遠近感がよく描かれ、
街の広がりや地形などを把握するのに適している。

壁の鳥瞰図を見た小夜子は、思わず、訊く。
「これ、まさか……手描き?」

「そうです、手描きなんです。 弊社制作の鳥瞰図の原画は、鳥瞰図絵師 黒澤達矢氏が描いています」
と、専務のふみ子は言った。

地図はもはや、道具、最新のデジタル技術で画くのが全てだと
思っていた小夜子は、驚く。手で、画く……。

手か、道具か……。
小夜子は、昨晩のことを思い出す。
昨晩のOne Night Loverは、
道具が好きな外国人だった……。
なぜ、男は、そんなにも征服したがるのか……
やめてと言うまで、執拗に攻めるのか……。 道具を使って……。

「鳥瞰図が、いいです」
小夜子が言った。
ふみ子は、優しい声で
「わかりました。神保町の鳥瞰図を、描いてもらいましょう」

訊けばふみ子と、夫の出会いは、
山登りだったらしい。
南アルプス。
女性だけの登山チームと、のちに夫となる男性がいたチーム。
登山途中で知り合い、写真ができたら会おうと約束。
ふみ子は、その男性のたわいもないだじゃれが
好きだったという。
「ああ、このひとと一緒にいたら、いつも笑顔でいられる」
もしかしたら……笑顔になれる、
それこそ、結婚の最大のポイントなのかもしれない、
そう、小夜子は、思う。

私は、ダメだ……
自分を俯瞰できていない。
「ああ、鳥の目が、ほしい……」

でも、ふみ子さんは言ってくれた。
「小夜子さんは、綺麗な目をしていますね」

ジェオ

ジェオ

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『鳥瞰図を指さす、蕪木ふみ子さん』

とにかく、(株)ジェオの凄さには、驚く!
緻密で丁寧な仕事。
デジタルを駆使した地図製作はもちろん、鳥瞰図や
鉄道の路線図、江戸時代の浅草の再現も!
パノラマの地図を見れば、文明開化の音がする!
ふみ子さんは、どうしてあんなにも優しい素敵な笑顔を
持っているのだろう……
きっと、心の中に鳥がいて、いつも俯瞰して
世界を見ているからに違いない。