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    2012〜15年掲載

ピエール大場の官能小説「路地裏のよろめき」

ピエール大場著者プロフィール
神保町にある某会社の開発本部部長。長野県出身。かつて「神保町の種馬」と異名をとったほどのドン・ファン。女性を誘うときの最初の言葉は、「美味しいもの食べにいきましょう!デザート付きで」
『NISSAN あ、安部礼司』HP

第百壱話『本能的な女と、壁をつくる男』

「こっちが裸になれば、ちゃんと向こうだって服を脱いでくれる」

それは、圧倒的な存在感だった。
靖国通りのとある雑居ビルの2階。
階段に貼られたポスター、写真が、すでに異世界に誘ってくれる。

涼川小夜子が、ふと、訪れたのは、
『ARTイワタ』。
店内に所狭しと並べられた、絶版写真集、絵画、オリジナルプリント、レアなCD、
Tシャツ、ピンバッジなどのグッズ、オリジナル写真集……
全てを貫くコンセプトは、「ROCK(ロック)」。

店を主宰しているのは、写真家が旬な女優、モデルを1冊丸々撮り下ろす、
ムック型写真集「月刊シリーズ」(新潮社刊)のプロデューサーである
イワタこと、岩田照雄。
店の奥に腰かけているイワタ。
その圧倒的な存在感に、さすがの小夜子もたじろいだ。
店に入った小夜子を、ギロッと見る瞳。
それは意外にもびっくりするくらい澄んでいて、少年のようだと
小夜子は思った。

軽く、頭を下げる。イワタは、無言で右手をあげた。
まるで10年来の友人のように。フツウはプライドという名の壁をつくる男が
多いのに、彼にはそれがいっさいない。
「ああ、このひとが、あの伝説のひとか……」
小夜子は、思い至る。
『週刊プレイボーイ』『平凡パンチ』、
雑誌の黄金時代に、青年たちに夢とエロを与え続けたグラビア。
それをプロデュースし、世の中をあっと言わす写真集を
創った男。
イワタは、誰も歩かない道を、突き進んだ。
自ら道を作りながら。

話しかける小夜子を、優しく包み込むようにイワタは
受け入れた。

「このビルの上に、スタジオがあってさ。そこで、女優やモデルと
オーディション、するんだ、テスト撮影っていうのかな」

イワタが小夜子に話してくれた。

小夜子は想像する、イワタの目の前で、
一枚一枚、服を脱いでいく、自分。
脱ぐごとに、まるで体中をなめられ、触られているような
快感が走る。
「このひとには、全て、見せられる……」
そんな空気感が、あたりを支配していた。

全身黒で身を包んだ若い女性が、
店に入ってきた。
CDを選んでいる。
「よく、このお店に来るんですか?」
と小夜子が話しかけると、
“日本語、話せません”と英語で返した。
“私は、中国人です。ここは、初めて、来ました。
置いてあるもの、みんな、センスがよくて、驚いています“

イワタが収集したグッズたち。
いや、これは、グッズではなく、
イワタの生き様。
全てのモノたちに、彼の魂が宿っているようだ。

セクシーで、優しくて、危ういモノたち……。

小夜子は、すっかり、ぐっしょり濡れていた。

ARTイワタ

ARTイワタ

URL
お店のHP

『ARTイワタ、岩田照雄さんの手』

とにかく、一度、訪れてみてください。
ARTイワタ。
運がよければ、店の奥に座る、イワタさんに会えるかも。

イワタが2013年11月に本の街・神田神保町にて
「ART+BOOKS+CDの店」として
スタートさせた『ARTイワタ』。
時代を越えたカッコよさ、不良っぽさを感じさせる
選りすぐりの商品が
あなたを待っています!