「今から52年前、京橋のレストランで働いていたんです。ディナーの値段が自分の月給と同じくらいという、知る人ぞ知る高級店でね。
そこへ友人から、神保町に出す店の手伝いを頼まれたんです。当時は若くてチャレンジ精神が旺盛でしたので、よしやってやろうということになりまして。途中から私自身が経営することになりました。だから、かれこれもう半世紀も神保町にいるんですね。あの頃はここまで続くとは想像もつきませんでした。この街とは本当に長いつき合いになりましたね。
開店当時はコーヒーが1杯50円。銭湯が15円、ラーメンが30円という時代ですから、決して安くはなかったんですが、お客さんは学生さんが多かったですね」
「書店さんが多いので、その影響は大きいでしょう。本を探す合間に休憩したり、買った本を読んだり。私のところも神保町ではかなり古株になってしまいましたが、『ラドリオ』や『ミロンガ』、それに今は休業中ですが西神田の『エリカ』など、もっと以前からやっている喫茶店もあるんですよ。残念ながら、なくなってしまった店も多いですがね……。
思い出すままに名前を挙げてみましょうか。三崎町の『セントルイス』、すずらん通り近くの『鳩ぽっぽ』、『エリカ』の隣の『ケルン』は美人喫茶で有名でした。神保町交差点にあった『坊ちゃん』、戦前からやっていた『エンプレス』、タンゴ喫茶の『ロトンド』……。白山通り沿いの『白十字』は今でもやっている古い店のひとつです。
また昔は、ひと口に喫茶店と言っても、純喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶、歌声喫茶など多種多様でした。ウエイトレスが水着姿でコーヒーを運ぶ『水着喫茶』というのもありましたよ。残念なことに1年ほどでやめてしまったようですが(笑)」
「山の上ホテルはとてもいい雰囲気ですね。都会とは思えない静けさと情緒があります。ひとりでのんびりするにも、友人同士でくつろぐにも、もちろんデートにも最適でしょう。それから、やはりこの街に点在する喫茶店やバーでしょうか。
そうそう、デートといえば、『さぼうる』で逢瀬を重ね、やがて結ばれたというカップルも結構いらっしゃいまして、時折思い出しては訪ねてくださいます。『若い頃はコーヒー1杯で何時間もねばりながら、恋人や友達と夢を語ったもんです』と懐かしそうにおっしゃるお客様……。
そういう話をお聞きしますと、私どもはコーヒーを売っているだけではないと痛感します。ここにはたくさんの『夢』や『ドラマ』があるんだなと。
そう、私の夢も、この店の1杯のコーヒーの中にあるんですね」
ナビブライター 青木伸広
店の入口には、昔懐かしい赤い公衆電話が置いてあります。店内は丸太と煉瓦を基調とした落ち着いた雰囲気。テーブルや壁に書かれた落書きも、名物のひとつです。
住所/神田神保町1-11
TEL/03-3291-8404
営業時間/9:00〜23:00
定休日/日曜
店名・品名・メニューなど、お好きな言葉で自由に検索できます。
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