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    2012〜15年掲載

パスカルは「人間は考える葦である」と言った。オスカルは「わたしの屍をこえていけ」と言った。ラスカルの声は野沢雅子だ。つかみのギャグが空振りしても適当に聞き流してもらえると助かる。ともかく人間はいろいろ余計なことを考える生き物だ。誰しも心に悩みを抱えて生きている。そんなアナタのお悩みに、珍書コレクターが答えよう。人生のヒントは古書の中にある!とみさわ昭仁フリーライター業のかたわら、神保町で珍本専門の古書店「マニタ書房」を経営する。本人は面倒臭いことを避けて通る性格なので、これまであんまり悩んだことはない。

7月のお悩み
高3の息子が受験を控えているのですが、部活を理由にして一向に受験モードに入りません。
妻とは毎日のように「勉強しなさい!」「ちゃんとやってるよ!」のバトルが繰り返されています。
わたしが思うに、これはある意味"更年期の妻"VS"思春期の息子"という構図なのではないかと……。
いまはまだ傍観しているのですが、気の弱いわたしはどちらに付くにせよ、
片方を敵に回しかねないでしょう。うまく仲をとりもつ秘策はありませんか?
M山U次郎さん(会社員/54歳)


『円楽、親父を叱る/
 三遊亭円楽』

(1981年/芳文社)

父親と母親には
それぞれ役割りがある!

 あー、奥さんと息子さんとの板挟みねえ。これはヘタすると「いい大学を出ないとお父さんみたいになっちゃうわよ!」とか「そんなオヤジを選んだのはオフクロじゃないか」とか、矛先がこっちを向いたりするから迂闊には口を出せないよね。息子っていうのは仲が悪いように見えて実は母親の味方で、そのくせ中身はオヤジに似てたりするから厄介なんだ。 相談者さんは、妻と息子の仲をとりもつ秘策を知りたがっておられるようだけど、そもそも順番が違うのではないかな。子供を叱るのは父の役目で、母はそれをなだめる役目。亡くなった5代目円楽師匠は著書『円楽、親父を叱る』の中でそう言っている。

 いつなんどきでもカミさんは、
「うちのお父さんの言うことは間違いない」
 と、はっきり亭主を盛りたてなければいけないんです。たとえば、父親が子どもを叱りつける。子どもは父親に反発を感じますね。何をやっても父親は叱るばかりだから。
 そこでカミさんの役割りができる。
「お父さんはお前のためを思って言ってるんですよ。どこに子どもを無闇に叱る親がいるものですか」
 噛んで含むように母親が子どもに言い聞かせるんです。父親は子どものケンカ相手。母親は子どものなだめ役──。この「ツー」といえば「カー」という阿吽の呼吸が夫婦に大切なんですよ。


  若い頃にプレイボーイ・キャラで売ってた円楽師匠らしいご意見ではあります。しかし、「ツーと言えばカー」なんて、いまどきの人には意味が通じないんじゃないだろうか。江戸っ子言葉の「〜っつうことよ」と言えば「ああ、そうかぁ」とわかり合える意思の通じやすさが語源だとか、ツルが「ツー」と鳴けばカラスが「カー」と答えるからだとか諸説あるけど、なんでツルに呼ばれてカラスが答えるんだよ!
 まあ、そんなことはどうでもいいか〜。


『今こそ燃えよ 君よ苦しめ そして、
 生きよ/アントニオ猪木』

(1982年/KKビッグセラーズジャパン)

生きるうえのルールってなんだ?
1、2、3……ダー!

 受験勉強は当然のごとく避けて通ってきたワタクシなので、エラそうなことは言えないけど、そんなに心配しなくていいんじゃないのかなあ。世の中、勉強や学歴よりも大事なことはあるよ! アントニオ猪木は、著書『今こそ燃えよ 君よ苦しめ そして、生きよ』の中で、こんなことを言ってます。

 母は常々、学問もたいせつだが、それ以前にもっとたいせつなものがあると言っていた。それは言うなれば「生きていくうえでのルール」とでも言うべきものだった。

 猪木が母から教わった学問より大切なもの。それは「生きていくうえでのルール」って、ちょっと何言ってるかよくわかんないけど、猪木語を翻訳すればようするに「元気」ってことですよ。元気があればなんでも出来る。猪木はいつもそう言ってるもんね。でも、なんでも出来るからって維新の会から参院選に出馬するのはやり過ぎだと思う。
 元気といえば、相談者さんの息子がやってる部活って何部なんだろう。運動部かな? そっち方面に才能があるなら、受験なんかほっぽり出して部活に専念してその道のプロを目指せばいいんだけど、でもなあ、3年生になった時点でまだ受験をしようと考えているということは、部活方面でプロを目指せるほどの才能はないってことなのかな。
 いやいや、たとえ才能がなくても、そんなに嘆くことはないよ。人間ね、誰だってなんかしらの才能はあるの。ただ、それが自分のやりたいことと一致するかどうかなんだよね。そりゃ一致すれば幸せだけど、そんな人はごく僅か。ほとんどの人は、いったん世の中に出てから自分の才能を見つけるんだ。ワタシは子供の頃から漫画家になりたくて漫画ばかり描いてたけど、結局そっち方面の才能はなかったな。それで紆余曲折を経て、こんな漫画みたいな人間になっちゃった。



『挫折から成り上がった全力人生!
 高卒社長/進藤慈久』

(2007年/三修社)

低学歴がなんだ
人生をあきらめるな!

 スポーツでの進学がダメで、正面からの受験もダメだったとしても、いーじゃないですか。高卒で何がわるい! たとえ高卒でも成功している人は世の中たくさんいるわけで、たとえばこんな人とかね。
 この本の著者の進藤慈久という人は、子供時代にいじめられた経験からグレて、不良になって、バンドを組んで、そのまま芸能界に入って、でもプロとして挫折して、そこから起業して宝石ビジネスで成功して、いまでは月収ン百万円……という人生を送ってる。
 こういう不良だった人が一念発起して起業するのは珍しいことじゃないけど、この人は人生の途中でビジュアル系のほうへ寄り道してるのがおもしろいね。あと、高卒で社長になれたから自伝のタイトルに『高卒社長』って付けたのかと思ったら、会社の名前が本当に「有限会社高卒社長」っていうの。こういう人でも社長になれるし、本も出版できるんだから、世の中なんとかなっちゃうもんだよ。かく言うワタクシも高卒だから、全然心配いらない!(かえって心配されたりして……)
 どこぞのブラック企業の社長さんが「途中でやめてしまったら"無理"になる。鼻血を出そうが、ぶっ倒れようが、全力でやり続ければ、それは"無理"じゃない!」と言ってます。そもそもそういう考え方が無理だよ! とワタシなんか思うけどねー。別にブラック企業に限った話じゃなくても、これまでは「途中でやめるのはカッコ悪い」っていう考え方が一般的だったでしょ。でも、これからはみんながもっと気軽にいろんなことをあきらめられる社会になるといいな。あきらめることでいったん自由になる。そこから新しい選択肢を探すんだよ。

次回もお楽しみに!

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