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私はアイドルが好きで、とくにキャンディーズやアグネスラム、百恵ちゃんなど、1980年代頃の写真集や単行本を、神保町に足繁く通って収集しています。たまに、「古本屋になって365日、アイドル本に囲まれていたい……」という妄想に憑りつかれることがあります。 古本屋は儲からないと聞きますが、とみさわ先輩はなぜ古本屋になったのですか? 古本屋になるにはどうしたらいいですか? 家族はいません。資金は200万円までなら出せます。
(41歳/独身のふつうの会社員)
『古本屋残酷物語』
志賀浩二
(2006年/平安工房)
オアシスというのは
常にその先にある
ああっ、ここにまた1人、見てはいけない夢を見てしまった男が!
古本の街、神保町が好きな人なら、誰もが1度は見る夢。それが古本屋のオヤジになること。かく言うわたしもそうだった。そして、いまから2年前、51歳のときにその夢を現実のものにした。それがマニタ書房だ。
相談者さんは2つの質問を投げかけている。1つめの「なぜ古本屋になったのか?」は、開業に至るまでの「気持ち」について、2つめの「古本屋になるにはどうしたらいいか?」は、具体的な「ノウハウ」について、それぞれ知りたいということだろう。
まず1つめの質問に答えるなら、先にも書いたように、それが古本好きとしての夢だったからだ。
わたしは長いことライターとして雑誌に記事を書いたり、ゲームデザイナーとして数々のゲームを制作してきた。いろいろ失敗もしたけど、大きな結果を残せたものもあった。
ところが、5年前に様々な事情で無職になってしまった。いまさら再就職もできないし、さて、どうしたもんかなー、と思案していたときに思いついたのが、若い頃からの夢である「古本屋を開く」ことだった。それ以前にも開業のチャンスは何度もあったんだけど、まあ老後の夢だね、ぐらいに思って、あんまり本気では考えてこなかった。でも、50歳を過ぎたいま、よく考えたら「おれ、ほとんど老後じゃん!」と気がついて、開業を決心したわけだ。
いざ、開業してみてどうだったか? わたしのことを話す前に、古本屋の先輩である古書窟 揚羽堂(コショクツ アゲハドウ)の店主、志賀浩二さんの『古本屋残酷物語』を読んでもらおう。これはブログに掲載されていた日記をまとめたものだ。一部抜粋する。
二月六日 冬のワタシ
外は小春日和のビューティフル・サンデーだというのに、今日も当店では閑古鳥が鳴いている。群れで鳴いているようだ
(P32より)
二月一八日 寒いと筋肉が疲れるネ
寒い。今日は二、三歩しか表へ出なかった。
昼はずーっと梱包作業。夜はずーっと出品作業。
(P46より)
四月二八日 人を見たらひやかしと思え
昨日も今日もお昼から夕方六時くらいまで店を開ける。店を開けているというより、店に風を入れてる、といった方が正しい。
(P93より)
五月一二日 貧乏神は実在する!
(中略)
そういえば、以前、シャッターを閉めたままで、店の掃除をしていた時、シャッターの外側でおばあさんが二人、井戸端会議をしていた。その会話が丸聞こえだった。
「あれ、ここ今、本屋さんになったんだってね〜」
「ダ〜メよ〜、ここはしょっちゅう変わるんだから。ほら、よくあるじゃない、長続きしない場所って」
「あ〜あ〜あ〜、そういうの、なんとかっていうんだよね〜」
「そうそうそうそう、ひゃっひゃっひゃっ」
(P103より)
ヒジョーに切ない気持ちになってくるのである。わたしは開業してからこの本を見つけて読んだのだが、古本屋になったことを激しく後悔した。だが、その一方でワクワクもする。店主がヒマしてる部分ばかりわざとピックアップしたから、古本屋って退屈そうに見えるだろうけど、ここに引用していない部分で、ときどき巻き起こる出来事がなんとも言えず楽しいのだ。古本屋をやることの醍醐味はそこにあるとも言える。
そんな波瀾万丈でもあるはずの古本屋の日常を、それでも退屈そうに坦々と書き続ける揚羽堂店主の日記は、味わい深い。
六月二八日 自由と孤独のハザマでビーチボーイズを聴く
今日はかなり暑かった…。
冷房の効いた事務所でただ一人、黙々と出品作業をやっていた。
来客もないから人とのふれあいもなく、独り言をブツクサ言いながら過ごす一日。悪くはないが、早くもこれが毎日だとつまらないような気がしてきた。
やはりオアシスというのはたどり着いた場所の常にその先に見える、という事かも知れぬ。
(P135より)
貧乏する覚悟があるなら
その勇気に拍手を贈ろう
夢のない話をしてしまっただろうか? でも、古本屋なんていうのは、孤独と退屈を愛せて、同じ作業の繰り返しに耐えられるような人でなければ、務まらないだろうと思う。儲かる、儲からないはその後だ。
ちなみに、我がマニタ書房はまったく儲かっていない。
『古本屋開業入門』
喜多村拓
(2007年/燃焼社)
では、なぜ儲かっていないのにマニタ書房が続いているかというと、それは、わたしの場合はライター仕事と兼業でやっているからだ。
「特殊古書店」という変わった品揃えの店を売りにすることで、様々な雑誌が採り上げてくださる。その結果、店主とみさわ昭仁の名前も知ってもらうことができ、ライターとしての原稿依頼も増えていく。そのとみさわは、様々な媒体にちょいちょいマニタ書房のことを書く(ナビブラ神保町も例外でない)。そうすることで、店の名前がさらに知られていく。この循環がうまくいっているから、なんとかやっていけてるわけ。
だから相談者さんも、いきなり専業で、などと思い切らずに、何か店番しながらできるような副業があるといいかもしれないな。
おっと忘れるところだった。2つめの質問「古本屋になるための具体的なノウハウ」ね。これは、そういうノウハウを書いた本がすでにたくさんあるので、それらを読んでもらうのがいちばんだと思う。わたしは北尾トロさんの『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』(風塵社)と、田中美穂さんの『わたしの小さな古本屋』(洋泉社)に影響を受けた。
もっと有名なところでは、志多三郎さんの『街の古本屋入門』(光文社文庫)というのがあって、これは古書店開業本としては基本中の基本。書かれたのが30年も前なので内容的に古くなっている部分も多いが、仕入れや値付けの方法など、いまでも参考になる。
開業資金は、お金をかけようと思えばいくらでもかけられるけど、工夫次第でかなり節約できる。200万円もある? 上等上等。うちはそれより少なくて済んでます。
志田さんの本と並んで有名な本に、喜多村拓さんの『古本屋開業入門』がある。こちらは古物商の営業許可証の取り方から、本棚の並べ方、値札の書き方、目録の作り方、しまいには万引き対策まで、とにかく知りたいと思ったことがなんでも書いてある。いちばんのおすすめだ。
だけど、この本を強くおすすめするのは、実用的だからということだけじゃない。古本屋という商売に対して誠実で、愛があるからだ。前書きにあるひと言を読んで、やるか、やらないか、決めるといい。
わたしたちの仲間を見ても、羽振りのいい古本屋のおやじにお目にかかったことはありません。まして、古本屋で蔵を建てたという話しだとか、二号さんを囲っているというような景気のいい話も聞いたことがありません。
貧乏してもそれが好きならおやりなさい。それでひと儲けしようと思うなら、やめたほうが賢明です。
起業家というのがいまも話題になり、サラリーマンを辞めて、一国一城の主になろうとする若い人たちが後を絶たないのは見上げたものです。自分でこの荒波の中で生きてゆこうというのですから、その志にはわたしも拍手を贈りたい。
(P2より)
悩み事があったらどんどん聞いてください。
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