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自分は学生時代から社交的で、誰とでもすぐに仲良くなれる性格です。社会に出てからも、いろんな趣味の集まりやサークルに顔を出すなどして交際範囲はますます広がり、数えきれないほどの友達がいます。ところが、高校2年になる一人息子はわたしに似ないで、学校に行く以外はずうっーと家に引きこもっています。 友達と呼べるような人間もいないのか、誰かを家に連れてくるのを見たことがありません。子育ては妻に任せっきりにしてきたのですが、それがいけなかったのでしょうか……。つい、息子を叱ってしまうのですが、もちろんそれは憎いからではなく、息子にもわたしのように大勢の友達に囲まれ、楽しい人生を送ってほしいからなのです。
(48歳/友達自慢の父)
『ありがとう!次郎』
村崎太郎
(2005年/ダイヤモンド社)
伸ばしてあげるべきは
息子さんの好奇心
相談者さんは勘違いしている。それは「友達が多ければ多いほど幸せな人生である」と思っていることだ。果たしてそうだろうか? 友達っていなくちゃいけないもの?
わたし自身は、フリーランスで仕事をしていることもあって毎日たくさんの人と会うし、そこから友達関係に発展する人も多い。だけど、そうした友人知人の多さが幸せとイコールだと思ったことはないよ。幸せは友達が持ってきてくれるものじゃなくて、自分の心の中にあるものだからね。相談者さんがいま幸せを感じているとするなら、それは様々な物事に興味の目を向ける、あなた自身の"好奇心"がそうさせてくれてるんだよ。
子育ては奥さんに任せっきりだったとおっしゃる。それはよくないね。でも、奥さんの子育てが間違っていた、と言いたいわけじゃない。あなたが自分の正しいと思うことを息子さんにきちんと伝えてこなかった、だから自分とは考え方の違う息子さんの姿に不満を感じてしまうんだ。次に挙げるのは、ある親子の姿だ。息子が父親から大事な躾を受けている場面。
「わかんないかなー!」
「……」(ああ、わかんないよ)
「おまえ、頭悪いな!」
「……」(なんだと!おまえの教え方が悪いんだろ。おまえの頭が悪いんだよ)
こんな調子で、どうやっても二人の歯車は噛みあわなかったし、やればやるほど二人の間の溝は深くなっていったような気がする。互いが互いのことをわかろうとしないで、自分の主張ばかりしていた時期だった。
(P34より)
そして、しびれを切らした父親の決定的なひと言で、息子はキレてしまう。。
「おまえなんか、選ぶんじゃなかった!」
…僕は許せなかった。それまで無言だった僕は、ありったけの抗議を試みた。
「ギーィッ、ゲェーーーッ」
なんだと、選ぶんじゃなかっただと?僕はモノなのか!?あんたにとっては僕はただのモノなのかよっ。僕が好きではじめたわけじゃないだろう。あんたが一緒にやろうって言うから、仕方なくやってんだぞ。ふざけるなっ!
(P28より)
ゲェーーーッという息子の叫び声で驚かれたかもしれないが、これは猿まわし芸人の村崎太郎さんと、二代目サル・次郎くんとの会話(サル視点)である。ただでさえコミュニケーションを図るのが困難な関係で、芸を教え込もうというのだから、それはひと筋縄ではいかない。次郎くんも怒って当然だ。
ところが、怒りをあらわにした次郎くんを見た太郎さんは、目を見開き、口をぽかんと開け、信じられない表情で見つめていたという。そして、こう言った。
「お、おい、おまえ、いま、喋ったのか?」
ああ、やっぱり驚きどころはそこだったのか。
「いま、喋ったね! いま、喋ったんだよね!はじめてだよね、東京に来て喋ったの」
うーん、ここまで猛烈に驚き、喜ばれると、少し戸惑ってしまうな。
「そうかぁ、おまえ喋れるのか。そうかぁ、喋れるんだ、ふーん。おまえ、ちっとも喋んないんで、馬鹿だと思っていたぜ」
(P29より)
このあと、村崎太郎さんは徹底的に相手を褒め上げる戦略に切り替える。そうして信頼関係を得た太郎さんは、サルの次郎くんと互いに同じ空気を読むことができるようになったのだ。
「うちの息子をサルと一緒にすんな!」と怒られそうだけど、ヒトもサルもそう大差はないよ。相談者さんは息子さんに「社交的な人間になってほしい」と願っているようだけど、伝えるのはそこじゃない。どんな好奇心の持ち方をしているか、だ。
息子さんは部屋に引きこもって何してる? 外へ出るよりも楽しいことがそこにあるんじゃないの?何に好奇心を持っているのかを理解してあげて、そこを伸ばしてあげよう。大勢の友達を獲得している相談者さんは、それができるだけの能力をすでに身に付けているはずだ。
父が買い、息子が維持する
逆境ほど燃える遺伝子
父と息子の関係性を考えるうえで、とても興味深い本がある。後半ではそれを紹介してみよう。タイトルはそのものズバリ『俺の親父』という。なんというか、豪速球をど真ん中に投げ込まれた感がある。表紙には、イタリア生まれのスーパーカー、ランボルギーニ・カウンタックがででーんと写ってるね。これは単なるイメージ写真じゃない。ちゃんと意味があるのだ。
『俺の親父 A,B,C…』
高野誠也
(2002年/写真庵)
いったいどんな本かというと、著者の高野誠也さん(一般人)が、尊敬する父の半生を振り返りながら、自分の父がどれだけ苦労し、それを数々の機智で乗り越え、波瀾万丈な生涯を生き抜いてきたか。そして、そんな父が自分にとってどれほど偉大な存在であるか。そうしたことを切々と書き記したものなのだ。
著者のお父様は昭和11年に北陸で生まれ、戦争が始まると疎開生活に入り、9歳のときに終戦を迎える。模型工作や機械いじりに明け暮れる少年時代を終えると、布団1組となけなしの貯金3千円を握りしめて上京。東京の婦人服製造卸売会社に就職する。
そこで様々な苦労を積み重ねながらも順調に出世したり、給料の少なさにブチ切れて会社を辞めようとしたり、人間関係のストレスで胃潰瘍になったり、副業で写真の現像屋をはじめたり、奥様(著者にとっては母親)との出会いがあったり……というように、いろんなことが赤裸裸に記録されている。自分の親父とはいえ、よくぞここまで事細かに取材したものだと感心してしまう。
なかには、明らかにそれ失敗談でしょ? と言いたくなるものもあるが、著者はそれすらも「信念を曲げない父」の姿として記述してゆく。彼のこの揺るぎない父親への尊敬の念は、わたしのように父と折り合いの悪い人間にはとてもまぶしく映る。心から尊敬できる父を持てるって、幸せなことだよねえ。
さて、ここまで説明して著者とその父親との信頼関係は伝わったのではないかと思うが、じゃあ、表紙のカウンタックはなんなんだ? という疑問が残る。これは、本書のまえがきに断片的に述べられている。
時は平成9年11月末、山一證券の倒産、親父はかなりの取引があって大変な状態であった時「親父、ランボルギーニカウンタックの新車が売りに出されている。色は赤。還暦も無事に終わった記念に買わない」とそこの店頭から電話を入れる。
(P1より)
少々わかりにくいので解説が必要だね。この著者は、子供の頃から車が大好きで、カウンタックに乗るのが夢だったそうだ。昭和63年にカウンタックの生産打ち切りを知ったときには、涙が止まらなかったという。それで、大きな取引先が倒産して窮地に陥っていた親父に「新車が売りに出ているから買ってよ」と焚き付けたわけだ。
自分で買うんじゃないのかよ!
というのは野暮なツッコミだ。この著者は、父の秘めたる底力を信じている。だからこそ、窮地に陥っているときにさらなる負担をかけてやることで、より大きな反動で逆境を跳ね返してくれるであろうことに賭けたのだ。
そんな息子の都合のいい信頼に、親父さんはどう答えたか。
「駐車場(首都高速道路公団千駄ヶ谷駐車場)に、"空き"があれば買おう」
(P1〜2より)
親父も買う気だよ!
早速、親父さんは電話で問い合わせ、駐車場に空きがあるのを確認すると、ディーラーで待機している息子に折り返し電話をかけ、「買ってよし!」と伝えたという。
そう、このカウンタックは、単なる本の表紙を飾るイメージ画像じゃない。高野親子の父と息子をつなぐ信頼の架け橋なのだ。
息子の勤める会社が不況の波に揉まれ、いつリストラの憂き目に遭うか戦々恐々としていたときに、親父さんはこう言い放った。
「無職になればカウンタックに乗れなくなるよ。俺は買う苦労(支払い)があった。維持する苦労はおまえにまかせる」
(P2より)
というわけで話がだいぶ逸れたけど、相談者さんもひきこもりの息子に、一丁奮発してカウンタックでも買ってあげてみてはどうだろう!(なんだこの結論は)。
悩み事があったらどんどん聞いてください。
本は"人生の知恵と経験"が詰まった宝庫だから、
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