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    2012〜15年掲載

1月のお悩み
 このところ妄想が激しくなって困っています。会社でモニターに向かっていると、いろんな風景がもやもやと浮かんできます。
 あるときはメジャーリーグの球場でホームランをかっ飛ばしているオレだったり、あるときは南の島で海に潜って貝を採っているオレだったり、またあるときは日本海の荒波を受けながら魂のロックンロールを吠えているオレだったりします。
 こんなわたしはおかしいのでしょうか? あるいはそろそろ転職を考えたほうがいいのでしょうか?
(ITブラック企業勤務/34歳/男性)


『やさしいセカンドライフ入門』
 スタジオセロ

(2007年/スタジオセロ)

650万人が住むはずだった
妄想だらけの仮想空間

 あのね、妄想するのは普通ですよ。誰だって妄想のひとつやふたつはある。あのときああすればよかった、こうすればよかった。そんな妄想はわたしだってしょっちゅう考える。あるいは、いまの自分は本当の自分ではなくて、美女をしたがえ、世界をまたにかけて活躍する国際スパイ──。
 中二病ですな。多かれ少なかれ、誰だって中二病の気はあって、それは一生治らないもんでしょう。現実ってのはなかなか思いどおりにはいかないもんで、現実に対して真剣に生きていればいるほど不満は大きくなる。その反動として妄想を思い描いてしまう。だから何も恥じることはない。思う存分、妄想にひたりましょう。

 かつて、こんな恥ずかしいビジネスがありました。国を挙げて大風呂敷を広げておきながら、まったく流行しなかったビジネス。いや、ビジネスという名の巨大な妄想。それは「セカンドライフ」。
 マニタ書房では、あと10年寝かせればきっといい味が出てくるに違いないとニラんで、セカンドライフの入門書を集めてるのね。そのうちの1冊にこんな記述があるよ。

 セカンドライフの世界では登録時に12種類の中からアバターを選択しますが、ゲームを進めていく中で洋服や髪型の変更はもちろん、かぶり物をしたり翼をはやしたり、考えうる限りのことができます。
 現実の世界とはまったく違う新たな自分を、セカンドライフの世界でつくりあげましょう。
(P9より)

 考えうる限りのまったく違う自分が「かぶり物」をしたり「翼」をはやしたりって(笑)。それ、なんも考えてねーから!
 その先を読むと、さらにすごいことが書いてある。

 セカンドライフの世界では家を持つこともできます。初期費用20万円と毎月3万6千円で土地を購入し地主になるか、地主から土地を借りるかして、その土地にマイホームを建てたり、お店をつくって商売をしたりすることが可能です。 (P9より)

 いまとなっては笑うしかないよなー。セカンドライフは「何もないところからお金を生み出す魔法のようなマーケットが登場した!」ってことで、21世紀になってもまだ練金術を信じてるような人達がうじゃうじゃ集まったんだけど、いざフタを開けてみれば、そこには「儲けたい人」しかいなくて、「儲けさせてくれる人」は誰も集まらなかった。
 妄想を実現させてくれるはずの場所だったセカンドライフは、運営してる人達が妄想を見ているだけの場所だったというオチだ。それに比べれば、質問者さんの妄想なんて、まったく健全だよ!  

底なしの妄想力は
北方領土すら買い付ける

 人生を真っ当に生きていれば、人は妄想ぐらい抱くものだとワタシは考える。そして相談者さんは現実逃避のあらわれとして、メジャーリーガーになって活躍している自分や、南洋で海女ちゃんになっている自分を妄想し、そんな自分はおかしいのではないかと不安になっている。妄想を抱く自分に対する不安は、まだまだ拭いきれていないに違いない。
 でも、人間の妄想っていうのはとにかく果てしがないからね。これから紹介する本を知ったら、相談者さんは、自分の妄想なんて妄想ではなかった、と思い知らされことだろう。
 その名も『マネーの怪物』。若き起業家の青年が書いたこの本は、とにかく出世の階段をのし上がって、大金を儲けて、望んだものはすべて手に入れてやろうという野望が、ギッチギチに詰まっている。全編どこをとってもその底なしぶりは素晴らしいのだけど、本を開いていきなり目に飛び込んでくる第1章「欲望100が俺のキーワード」というのが群を抜いてずごい。そこには、著者の欲望が100個、なんの照れも臆面もなく、ずらずらと箇条書きされているのだ。
 全部書いてると大変なことになるので、いくつか抜粋しよう。

1. 今のビジネスで年商100億円。
3. 東京都港区もしくは渋谷区の超豪華億マンションに住む。
8. 80歳まで生きる。
12. 宇宙旅行する。
14. 阪神タイガースを買う。
29. ルパン三世に登場する、ルパン、不二子、次元、五右衛門のように優れたメンバーを集めて、その軍団で定期的にビジネスを行う。もちろん俺がルパン。
37. 米大統領、日本首相と握手する。
38. 始球式に登板する。
42. ポルシェ、ベンツ、フェラーリ、超高級車7台を保有し毎日乗り換える。
45. 自分の歴史の映画を制作する。
48. 自宅にサウナを作り、ジムを作り、もの凄い風呂を作る。
57. カリブ海でガウンを着ながらワインを飲み、そのガウンを脱ぎ捨てて海に飛び込む。
60. ドイツの古城をレンタルして歴史を味わう。
64. 召使いを雇う。
77. ハーバード大の学歴を買う。
81. 北方領土を買い日本政府にプレゼントする。
86. 人類が足を踏み込んでいないところに入り感動を味わう。
90. ふわふわのベッドを部屋中に敷き詰めてゴロゴロし回転する。
100. 資産1000億円を持つ。
(P25より)



『マネーの怪物』
 片山勇二

(2002年/有朋書院)

 いやー、すごいな! 本の表紙とか、全体の作りを見るとわかるんだけど、これ、決してジョークの本じゃなくて、本当に著者の魂の叫びとして書かれてるんだよね。どう?これを読んだら自分の悩みなんて、とてもちっぽけなものだというのがわかるでしょ?
 ワタシも日々生活していて、道に迷うことがあったら本棚からこの本を抜き出し、パラパラとめくるんだ。そうすると、また頑張ろうって気持ちになれるよ。























次回もお楽しみに!

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