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    2012〜15年掲載

11月のお悩み
 僕には恋人がいます。まだ結婚の約束はしていませんが、プロポーズをすれば受けてくれるだろうという確信はあります。結婚すれば、当面は僕がいま住んでいるマンションに彼女も引っ越してくることになるでしょう。 問題はそこです。僕はフィギュアやミニカーなどいろいろ集めている物があって、部屋がかなり散らかっているのです。自分ではそんなつもりはないんですが、友だちからは「ゴミ屋敷」と言われています。 以前、奥さんにコレクションを全部捨てられて心を病んだ男の人の話をネットで読んだことがあります。もし、自分も同じことをされたらと考えると、夜も眠れません。
(電設関係/31歳)


『魔窟ちゃん訪問』
 伊藤ガビン、写真:大高 隆

(1995年/アスペクト)

魔窟に姫を迎え入れる
その日のために

 コレクションを捨てられる……という以前に、家がゴミ屋敷になっているところを見られたら、彼女は籍を入れる前に逃げるんじゃないだろうか。それとも、友だちの表現が大袈裟なだけで、実際にはそんなにゴミ屋敷化してるわけではないのかなー。
 ま、ゴミの度合いはともかくとして、コレクションと部屋の散らかりという問題はあるよね。おそらく世間一般の人は、コレクターというのは「整理整頓が得意な人種」だというイメージを抱いているはず。キレイに片付けられた部屋の中に陳列用のショーケースなんかがあって、コレクションアイテムが整然と飾られていたり、アルバムにビシッと収納されていたり、みたいなね。 でも、実際にはそんな人ってあんまりいないんだよ。たいていのコレクターは部屋中がとっ散らかっていて、どこに何があるのかわけわかんなくなっているもんだ。長いあいだいろんなコレクターを取材したり、交流をもってきた自分にはわかる。
 伊藤ガビン氏が様々なコレクターの部屋を訪ねて歩く『魔窟ちゃん訪問』という本にも、そういうほとんどゴミ屋敷に近いような部屋がいくつも紹介されている。中でも漫画家のあさりよしとお先生のお宅の描写がすごい。

 部屋全面にモノが堆積しているのが見てとれるだろう。この堆積物の厚さというか深さはだいたいワタシのふくらはぎの4分の3くらい。(中略) その堆積物の内容を研究して見ると、まずは雑誌やマンガや図鑑等の本関係、それにビデオテープ、何かのチラシだったようなグシャグシャの紙、模型の箱、紙袋、ペットボトル、などなど。量に圧倒されるが、内容にそれほど汚いものはないのが何気に大人って感じである。(中略) ところで、あさりセンセーの最近の道楽は、腕時計の収集だ。この部屋のどこにそんなお宝が? と思ったら、なんと堆積物の中から出てくる出てくる時計がビッシリ入ったケースがいくつも。(P11より)

 大事なコレクションをそんなゴミの中に埋もれさせておいて平気なの? と思われるかもしれないが、平気なんだよ。脳の中で、それとこれとは別、っていう変な線引きがあるんだよね。ただ、それはあくまでも自分の頭の中だけの話で、他人にはその違いがわからないから厄介だ。それで大事なものを捨てられちゃったりして、悲劇に発展する。
 相談者さんがどうしても結婚と趣味を両立させたいなら、何もコレクションを捨てる必要はないと思うので、せめて包装紙ぐらいは捨てようよ。それは誰が見ても100パーセント、ゴミだから。あと、できれば箱も。それだけでもずいぶんスッキリするでしょうよ。百歩譲って、捨てなくてもいいから、せめて畳め。箱を。 

豊かさってなんだ!
振り向かないことか!?

 しかし、ワタシもコレクター気質が強くて、うっかりしてるとすぐに物が溜まっていくタイプの人間だから、相談者さんの気持ちはよーくわかる。少し前に、やましたひでこさんの『断舎離』の本がベストセラーになったでしょ? その後、柳の下のドジョウ的に似たような内容の本もたくさん出版された。 部屋を片付ける参考にしようかと思って『断舎離』本を買おうかと思ったんだけど、ワタシの場合は1冊手を出すといろんな『断舎離』のパクリ本を集めたくなっちゃうから、危ういところで踏みとどまった。
 相談者さんがどうしてもゴミ屋敷な生活から脱出したいと思うなら、一度、ゴミ屋敷の極限を追求してみるというのも、ひとつの手かもしれないね。とにかく捨てない! コレクトアイテムを買ってきたら包み紙をむしりとってそのまま放置。帰宅したら靴下とかも脱ぎ捨ててそのまんま。カップ麺とか食べても台所になんか持っていっちゃダメ。その辺にポンと置く。とにかく何も捨てない。アナタが唯一捨てていいのはゴミ箱だけだ!
 やがて足の踏み場がなくなり、床はもう見えず、どこからか異臭がし始める。夜、寝ていると「カサカサ……」ってなんか動く音がする。「あのビデオ、どこやったっけ?」なんて気まぐれに床のゴミを選り分けてみると、見たこともない柄のキノコが生えている。

ぎゃー!

 さあ、そこが人生の分岐点だ。もちろん、そこでハタと目覚めて一気に部屋を片付ければ、人間らしい生活を取り戻せる。しかし、すでに感覚が麻痺してしまって「こういう暮らしもこれはこれで気楽でいいなあ」なんて思ったらもう引き返せない。 風呂にも入らず、何日も同じ服を着続け、ヒゲボーボーのアナタから彼女が離れていってしまうのはもちろんのこと、会社もクビになる。家賃が払えなくなって大家さんに叩き出されて、あとは一路、ホームレスの道へ!

  『ASAKUSA STYLE 浅草ホームレスたちの不思議な居住空間』という本がある。浅草に住みつくホームレスの方々の「家」を紹介した写真集だ。ホームレスなのに家がある? 疑問に思うのも無理はない。家といっても、これはホームレスたちが段ボールや廃材、それにビニールシートを駆使して作りあげた手作り住宅なのだ。



『ASAKUSA STYLE
 浅草ホームレスたちの不思議な居住空間』
 撮影・文:曽木幹太


(2003年/文藝春秋)

 で、この本をつらつら眺めていると、あることに気づく。それは、これらの家の中が驚くほど片付いている、ということだ。もちろん、無駄な物を買うような経済的余裕がない、という理由もあるだろう。余裕どころか経済自体がないわけだけど。それでも、ホームレスの皆さんはどうにかやりくりをして生活用品を揃えていく。
「台所」には必要最小限の調味料や食器がきちんと並べられ、「窓」際には飲料水をたくわえた大五郎のペットボトルが整列している。ゴミを集めて構築した暮らしでありながら、ゴミ屋敷といった様相はまったく見られない。
 豊かさの対局にあるはずのホームレスの暮らしがとても豊かに見えて、ちゃんと住まいも職もある人の暮らしがゴミ屋敷化する。なんだか豊かさというものの意味を考え直したくなる話だね。















次回もお楽しみに!

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