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    2012〜15年掲載

2月のお悩み
 Tカード包囲網に悩んでいます。最寄のコンビニはファミリーマート、カフェはエクセルシオールカフェ、いつも行くスーパーまでTカードを導入する始末。どう考えても「Tカードに加入しとけよ、おい!」という包囲網ができているのですが、なんだか加入するタイミングをすっかり逸してしまいました……。Tカードに限らず、「今でしょ!」のタイミングを自分であやふやにしたものの存在にモヤモヤしています。こんなとき、どうしたらよいでしょうか?
(“これもカード地獄!?”のOLさん/28歳)


『千昌夫・驚異の蓄財術』
 段勲

(1989年/あっぷる出版社)

ポイントカードの“魔”に
引きずり込まれるな

  まずは「Tカード包囲網」って言葉に笑った。たしかに囲まれてるよねえ。いまはホントどこ行っても聞かれるし、レジにはあの青と黄色のTの字が書いてある。ブックオフに馴染みすぎてるわたしは青と黄色だけだと、なんだか赤が足りない気がして落ち着かなかったりするけど、それでも、いちおうTカードは持ってる。TSUTAYAでDVDを借りたいから。
  でも、DVDを借りる以外の目的に使うつもりはない。コンビニでコーヒー買ったときにもいちいち「Tカードお持ちですか?」って聞かれるけど、ああいうの鬱陶しいよねえ。それでポイント付いて、どんだけ得するのか知らないけど、どうせ微々たるもんでしょう? 買い物のたびにいちいち財布からカード抜き出す手間とストレスを考えたら、ポイント貯蓄で得られるもの程度ではまったく割に合ってない気がしてしまう。
  いっそのこと、TカードはもちろんキャッシュカードもSuicaも世の中のあらゆるプリペイドカードは一元化されて、どこで何を買っても共通のポイントが溜まるのだったら、ずいぶんと使い勝手がいいのではないだろうか。普通にご飯食べに行ったり、服買ったり本買ったり映画見たり、っていう生活をしていれば、溜まったポイントで毎日コーヒー1杯ぐらいはタダで飲める。そういうのがいいなあ。
  歌手の千昌夫は、かつて仙台に購入した土地の値上がりをきっかけに巨万の富を築いたことで知られる。『千昌夫・驚異の蓄財術/段勲』という本の中で、その蓄財術を10ヵ条にわたって紹介されているのだが、第7条にはこんなことが書いてある。

  第7条──「カードを持つな」
  いまや、世をあげてカードの時代。1人で各種カードを10枚、20枚と所有していたり、なかには、マニアよろしく50枚、100枚と集めて悦に入っている奇特な人もいる。
  たしかにカードなら現金を持ち歩かないため安全というメリットはあるが、千の場合は、
「だから危険だ」
  という考え方で、そのためカードは1枚も所有していない。なぜ、どこが危険なのか。実はこれも、千、特有の発想である。
  カード所有者なら1度は経験があるだろうが、とにかく使い過ぎるのだ。たった1枚のカードで、その気になれば何でも買える。こうした気軽さから、当面、必要でないものでも余分に買ってしまうことがある。
(P143より)

  ここでいう「カード」とはクレジットカードのことだと思うが、ポイントカードにも似たような側面はある。つまり、"ポイントを溜めるために欲しくもないものをつい買っちゃう"んだよね。そのあたりのことは立川志の輔が『はんどたおる』という創作落語にもしている。おまけのハンドタオル欲しさに食べたくもないシュークリームを余計に買っちゃう主婦と、それを愚かだと笑う亭主は巨人戦のチケット欲しさに読みもしない新聞を購読していてお互い様、という話。
  ともかく、人間は何かキッカケがあると、つい要らんものでも欲しくなってしまう生き物だ。その“魔”に引き込まれないようにするためには、よほど強い意志を身に付けるか、やはり今後もTカードを拒否し続けること、だ。

釣りはいらんとっとけ系に
ワタシはなりたい

  買い物するたびにポイントが溜まって、そのポイントでお買い物が出来る……。これってある種の仮想通貨みたいなものだとも言える。仮想通貨といえば、ただいま話題のビットコインだ。政府の介入しない通貨。おもしろそうな可能性を秘めていながら、その一方でどこか胡散臭さも消せない。 仮想世界の胡散臭さという話になると、また『セカンドライフ』の本を引用したくなるところだが、そこをぐっとコラえて別の話をしよう。
  相談者さんは「タイミングを自分であやふやにしたものの存在にモヤモヤしている」とのこと。この連載では何度も書いているけど、わたしも様々な問題をすぐ先送りにする性格なので、気持ちがよくわかります。あやふやばかりの人生よ。できることなら財布の中のカードのことなんて考えずに、もっとこう図太く生きてゆきたいものだね。元近鉄、鈴木啓示のように。
  その著書『投げたらアカン!/鈴木啓示』の中に、雑誌の対談企画で江夏豊と会話したときのエピソードが載っている。

  対談が終わり、これからプロ野球でどういう目標をもってやっていくか? ということになり、ユタカはキッパリとこういいきった。 「ワシは、太く短くてもエエ、スカッとしたプロ野球人生を送りたいんや」 「フーン、オレは違う。オレは細く長く、とにかく、一年でも長くプロ野球でプレーをしたいんや」とオレはいった。
(P62より)



『投げたらアカン!わが友・わが人生訓』
 鈴木啓示

(1985年/恒文社)

  これだけ読むと、野球人生を太く生きたのは江夏のほうで、鈴木啓示は「細くていい」と言ってるように思える。だが、このあとトンデモナイことを言い出すのだ。

  今はもう時効になったから、書いてしまうけど、オレはヘベレケのレケ……。さあ、神戸からの帰りの43号線(国道)が大変だ。当時のことを思い出して、ユタカはいつもいうのだ。
   「スズちゃんのクルマは、左へ左へと行くんや。あんたは酔うとるから平気やが、横に乗っとるワシはシラフやったから、いつも寿命のちぢむ思いをしたもんや。
  実際、いま考えると、背筋が寒くなる。まさに泥酔運転もエエとこ。おまわりさん、これは昔の話や、今はしてませんよ、タクシー利用です。
(P63より)

   全然、「細く長く」なんて生きようとしてない! あまりにも太過ぎるよ! まあ、飲酒運転は昔だってやっちゃダメなんだけども、それすら豪放磊落に語ってしまえる図太さには見習うところも大いにある。
   鈴木とか江夏とか、最近だったら清原とか、こういう人たちがレジでTカードを出してポイント溜めてる姿は想像できない。どちらかというと「釣りはいらんとっとけ系」の人たちだ。そんな風にワタシはなりたい。相談者さんもなりたい、よね?




次回もお楽しみに!

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