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    2012〜15年掲載

4月のお悩み
 この春の人事異動で、営業部の課長に昇進することになりました。そこは男女半分ずつの外回り10人部隊で、家内は「お給料が増税分以上あがっていいじゃない!」と能天気に喜んでくれるのですが、私は子供の頃から"上に立って人を引っ張る"ことが嫌いで、避けてばかりきました。今後は上司の顔色をうかがいつつ、部下の指導もしなければならないので、正直、憂鬱です。こんな私に勇気を与えてくれる本はないでしょうか?
(中間管理職なんてくそくらえ!男性/38歳)


『湯気のむこうの伝説』
 垣東充生

(2000年/新宿書房)

弟子(部下)の数は
自分への評価のあらわれ

  ご昇進、おめでとう! 中間管理職バンザイ!
  いや、嫌味じゃなくてさ、ロクに昇進なんてしたことないワタシなんかからすると、ちゃんと課長になられて、10人もの部下を任されることになった相談者さんはホントすごいよ。奥さんが喜ぶのも当然のこと。

  えー、ラーメン界の偉人に、山岸一雄さんという人がいます。東池袋にあった大勝軒という特製もりそば(つけ麺)で人気を博した超有名店の創業者。この方は、最初、弟子をとらずに、奥さんの手伝いを頼りに店を切り盛りしてたのね。なぜかというと、奥さんが従業員を雇うのをいやがったから。
  有名ラーメン店の成り立ちをまとめた『湯気のむこうの伝説』という本の中で、山岸さんはこう言っている。

  「カミさんがいやがったんですよ。どうも他人と一緒に商売をするのが苦手だったみたいですね。それに『自分は体が弱いから、休みたい時に休みたい。その時に従業員がいると気を遣ってしまうから』とも言ってました。だから、それまで弟子入りを希望した人もいたんですが、全部お断わりしていたんです」
(P228より)

  仕事っていうのは、家族の支えがあって出来るもの。山岸さんみたいに、奥さんが積極的に仕事を手伝ってくれていて、その奥さんがいやがっているなら仕方ないけど、相談者さんの場合は家業じゃなくて会社での話だもんね。奥さんはお給料のことだけで喜んでるわけじゃなくて、会社が「コイツは10人の部下を託すに値する人材だ」と認めてくれたことにも歓びを感じてくれているのだと思うよ。

  山岸さんは、その後、奥様を亡くしたことをきっかけに弟子をとるようになった。現在は、ご自身も体を悪くされて現場から身を引いているけど、巣立っていったたくさんの弟子たちが大勝軒の暖簾を守っている。一説では、山岸さんの弟子は約100人いるんだって。相談者さんもがんばんないとねえ。

ガマンの集積が
やり甲斐につながる

  チームリーダーと聞いて真っ先に浮かぶのは、プロ野球の監督だ。
  昭和五十三年にヤクルトを球団史上初の日本一へと導いた名将・広岡達朗は、「軍艦の戦い」を野球観の土台においていたことで知られる。「軍艦の戦い」とは、陸上での戦闘と違って、艦が沈めば乗組員全員が死ぬことになる、運命共同体での戦いというものだ。
広岡は、自身の人間管理術を説いた著書『私の海軍式野球』で、少年期の思いをこう振り返っている。

  そのころ、私の夢は、海軍兵学校を出て、やがて海軍大将になることであった。努力さえすれば、きっとなれるに違いないと、そのときの私は本気で考えていた。
  そして、もし艦長となって戦いに臨む日がきたら、全員が一丸となって敵に当たろうとそう考えていた。「みんなのために、自分を捨てる」という考えが、そのころの私にはひどく貴いもののように思えた。
(P21より)



『私の海軍式野球』
 広岡達朗

(1979年/サンケイ出版)

  当時はそれが普通だったのだろうけど、なんとも勇ましいお子様だ。しかし、まあ、戦時中とは違って、ビジネスの現場では多少失敗したって死にゃあしないんだから、これぐらいの気概を持って取り組めというのは、あながち間違いではないとも言える。

  例えば、会社でも社員がそれぞれ犠牲を提供しあって、そこで「会社の業績」が生まれる。野球チームなら、勝つために選手がお互いにガマンをしなければならない。そのガマンの集積が、勝利になり、やり甲斐につながり、さらに年棒に結びつき、幸福とか生き甲斐への道に発展していくのではないか。
(P22より)

   相談者さんは、リーダーに必要な資質は"上に立って人を引っ張る"チカラだと解釈していて、それが自分は得意でないのだ、と考えているようだね。人を引っ張るためには、自分は部下たちの何倍もの能力を持っていなければならないことになる。でも、それだとプレッシャーが重くのしかかってくるばかりでしょう。

  それよりも、引っ張るのではなく"押し上げる"と考えたらどうかな。ミスをされても、叱りたいところをガマンして、代わりにいいところを見つけて褒めてやる。スポーツでも、ビジネスでもなんでもそうだけど、叱って鍛えるんじゃなくて、褒めて育てるという考え方はもっと広まっていいと思うな。

  それと、上司と部下の関係は、上司が部下に教えるだけじゃなくて、上司が部下から教わる場面も実は多いのだ、ということは覚えておいた方がいいです。そういうつもりで接すると、多少はプレッシャーも和らぐのでは?




次回もお楽しみに!

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