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    2012〜15年掲載

2月のお悩み
 住宅系の営業マンです。正直に言ってしまいますが、自分はとても怠け癖が強いのです。営業回りをしていても、ちょっと暑くてかったるくなるとすぐに喫茶店なんかでサボってしまいます。人並みに出世欲はあるのですが、どうしても努力が続かないんですよね。ラクして成績が上がる方法はないでしょうか? それとも、こんな自分は間違っていますか? ちなみに、いまの職場は伯父さんのコネで入社しました。
(ハクビシン/34歳)


『生ジュース健康法』
 飯塚律子

(1974年/池田書店)

○○するだけで効く!
速効性のある人類の進化

  なるべく勉強しないでいい成績を取りたい。残業も休日出勤もせずに出世したい。美味しいものを食べながら、美貌とスタイルは維持したい。そういった「ラクしていい目を見たい」という気持ちは、ちっともおかしなことじゃないですよ。誰でも最短距離で成果を出したいと願うもんだ。そもそも人類が二足歩行して、炎を操り、道具を使い、様々な文明を築いていったのは、すべて「ラクをするため」だもんね。
  世の中には「ハウツー本」というものがあって、それなりに大きな出版ジャンルを形成している。ちょっとした規模の書店に行けば、そういう本ばかり集めたコーナーがあるし、ベストセラーランキングにもちょいちょい顔を出す。
  しかし、これらのハウツー本はひとたび商品寿命を終えて、古本になった途端にその魅力を失う。だから古書マニアはハウツー本なんて見向きもしないし、当然のことながら古書市でも冷遇されていて、ほとんど価値のないものとして扱われている。
  ところが、そんなハウツー本をいろいろ取り揃えているのがマニタ書房だ。たとえばこの1冊、『生ジュース健康法』(飯塚律子)なんてどうだ。ラクして健康になりたい! という全人類の甘い考えをそのままビジュアルにしたような表紙の笑顔がイイ。
  そして、本文を紐解くと、こんなことが書いてある。

 野菜や果物をそのままとるよりも、ジュースでとれば吸収される時間が非常に早いため、必要とする臓器にすみやかに運ばれ、活用されるので速効作用が望めます。(P16より)

  この「効果の速さアピール」ってのはハウツー本の基本で、やっぱりみんなラクをしたいんです。相談者さんだけが怠け者なわけじゃない。
  それから、生ジュースというのが象徴的だけど、健康法の場合"飲むだけで"っていうのも重要なポイントだね。身体にいいとされているドリンクとしては「青汁」が有名だけど、あれは苦いからちょっと躊躇いがある。でも「生ジュース」だったら頼まれなくたって飲んじゃうよなー。

ナマケも徹底すれば
いつか道はひらけるだろう!

  他にも、こうしたドリンク系の健康ハウツー本は『白湯毒だし健康法/蓮村誠』(PHP文庫)とか、『牛乳健康法/古我可一』(エール出版社)とか、もっともらしいものがいろいろある。その中でも驚きというか、あまりにも虫がよすぎるのは『アルコール健康法』(J・アダムズ)だろう。サブタイトルには「酒は大人の牛乳である」なんて都合のいいことが書いてある。
  本書の中では、酔いの段階を4つに分けて解説している。それをちょっとここに書き写しておこう。

  第一段階=おだやかな幸福感。緊張と束縛からの少々の解放感。温かさを感じ、快活になる。酔っぱらいの顕著な兆候なし。
  第二段階=束縛からのはっきりした解放感。開放的、多弁、社交的になり、「アルコールの影響下にある」ことが、しだいに顕著になってくる。
  第三段階=はっきりと酔っぱらいの兆候を示し、運動機能が損なわれるため、少なくともある程度ぶきっちょになる。自制心が失われて、社交的、出しゃばり、愛欲的な衝動で行動する。感情が高ぶる。
  第四段階=はっきりとぎこちなく、とりとめがなくなって、正体を失った状態となる。昏睡一歩手前。
(P29より)

  ダメじゃん!



『アルコール健康法』
 J・アダムズ

(1977年/光文社)

  いや、まあ、飲み過ぎるとそういうことになるから、ほどほどにしましょうね……ということが言いたいのはわかる。実際、第3章では「酒は百薬の長である」として、程よく酒を飲むことがどれだけ身体に良いかを、滔々と訴えているからね。曰く「酒飲みは禁酒家より長生きする」であり、「酒は食欲増進剤」であり、「回復期の病人には酒が薬となる」である、と。まことに都合のいい展開だ。そうまでして飲みたいか? まあ、飲みたいんですけどね。
  とにかく、このようにみんなラクをしたいのだ。ラクして生きたいし、好きなことだけしてエラくなりたいのだ。だから、相談者さんは何も間違っていない。
  いっそのことサ、会社サボリ道を追求するといいよ。大いに怠けて、大いにラクすることを考えて、いつか『サボタージュ出世法』とか『君も出世ができる、日本一のゴマスリ大作戦』みたいな本を書くといいんじゃないかな。……植木等か!











次回もお楽しみに!

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