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    2012〜15年掲載

8月のお悩み
グルメ情報を楽しみに「ナビブラ神保町」をいつも楽しく拝読しています!! 新企画の「とみさわ昭仁の古本“珍生”相談」を読んでいたのですが、回答がおもしろく、自分自身の参考にもなったので、私も相談させていただきます。小さな悩みが沢山あるので、1つずつ相談しようと思っています。
1つめは……川柳を投稿して2年目なのですが、1度も採用されたことがありません。人の書かれたものを見ると「上手だなぁ〜、うまいなぁ〜」と思うことがよくあるのですが、自分では五七五という短い言葉の組み合わせが、うまく浮かばないのです。“川柳力”を高めるには、どうしたらよろしいでしょうか?
あんこちゃん(主婦/29歳)


『静岡県の方言
 /山口幸洋』

(1987年/静岡新聞社)

古本の海に潜って
言葉を拾い集めてこよう!

 複数のご相談ね、ケッコウケッコウ。最初は「川柳力を高めたい」ということだけど、ワタクシ、川柳など詠んだことないからサ、うん、わかんない。わかんないけどー、まあかれこれ30年ほど文章を書いてごはん食べてきたのでね、そこから言えることはある。
 川柳っていうのは「うがち」「軽み」「おかしみ」の3要素が大切だというよね。みんなが当たり前に見ているものをあえて穿った見方をすることで本質をつかみ、しかし、それを勿体ぶらずに軽く表現し、味わいのあるおもしろさを滲み出させる──そういう言語表現なわけ。で、それはワタシが仕事で書いているコラムやエッセイなんかも同じだったりするのね。
 いかに人と違うことを言えるか、いかに人が気づいてないことに気づけるか、そして、それをどうおもしろく軽妙に表現できるか?そういうことにずーっと心を砕いている。ただ、机の前で腕を組んで考えているだけじゃうまくいかないから、ヒントを見つけるためにいろんな本を読む。
 興味のある分野はもちろん、まったく興味のない分野の本もどんどん読む。そうすることで、自分の中にはなかった考え方が生まれるし、いろんな言葉とも出合うことができるんだ。
 自分で古本屋を開業したことで、本と接する機会は格段に増えた。すると、この世には実にヘンな本があふれているんだなぁと実感するね。「海外旅行でのチップの渡し方」「哺乳類の胎盤の進化」「温泉の掘り当て方」「バナナの叩き売りの口上」……いったい誰が読むんだよ! と言いたくなるような非常にターゲットの狭いテーマが、いちいち本になって出版されている。
 言葉を使って何かを表現したいという人には「方言の本」をお勧めしたいな。方言を研究した本というのは47都道府県ほとんどすべての地域のものが出版されていて、とくに東北弁、関西弁、博多弁といった映画やドラマでも耳にする機会の多い特徴的な方言は出版点数も多い。
 でも、ここで注目しておきたいのは、一見あまり際立った特徴がないように思える地域について書かれたもの、たとえば『静岡県の方言』みたいな本だね。静岡の方言と言われても瞬時には思い浮かばないぐらい、静岡には方言を使うイメージがなかったりするんだけど、この本を開いてみると、静岡はむしろ方言的に複雑な土地だということがわかる。それは、地形の複雑さのほかに、かつてあった伊豆・駿河・遠江という3つの国が集まって出来たという事情も影響しているらしい。
 東京の若者言葉で「〜ジャン」というのがある。これは、元は横浜の方の言葉で、それが東京に流れてきたんだと思っていたが、どうもその源流は静岡県東部(富士川以東)方言の「ジャ」にあるらしい。本書で、「ジャ」が「〜ジャン」に変化していった過程を推理するくだりがおもしろい。

≪〜ジャンの語源としては、(1)「〜じゃないか」が簡素化されたというものと、(2)「〜では?(〜じゃ?)」という言い方の固定したものという二案がある。相手の気持ちをうかがい確かめながら自分の主張を織りこんでいく語法という点では同じである。これはいま流行している〜ジャンも十分受け継いでいて、それ故に魅力ある語法として、一度覚えたらこれ無しでは会話できないほどに連発するようになる。(P229より)≫

  「相手の気持ちをうかがい確かめながら自分の主張を織りこんでいく語法」って、いいフレーズだなー。昔、南伸坊さんが不良の「〜ダゼ」を「若さの熱をともなった詠嘆の終助詞」みたいな分析をしていてすごい笑ったことがあるけど、若者言葉をマジメに分析するのっておもしろい。……川柳と全然関係ない話になっちゃったけど、別にいいジャン!

 2つめの相談ですが、最近、私は人の名前が覚えられません。「〇〇さん〜」と話かけられても、相手の名前が出てこないときがあり、あたふたしてしまいます。芸能人も、自分の興味ない人物だとすぐには名前が出てきません。先日かなりショックだったのは、初めて会ったと思っていた相手が、実は以前に会っていたことでした。この記憶力の悪さを改善したいのですが、どうしたらよろしいでしょうか?


『ドクター中松の 頭をもっと良くする
 101の方法/中松義郎』

(1992年/KKベストセラーズ)

名前なんて忘れて当たり前!
人間、ほどほどがいちばん。

 記憶力の悪さには定評のあるワタクシに、ピッタリの相談をありがとう!
  相談者のあんこちゃんは「最近」って書いてるよね。ここポイント。つまり「かつては覚えられたのに、最近になって覚えられなくなってきた」ってことでしょ? その理由を脳の老化に求める人が多いけど、実際には記憶力って老化とはほとんど関係ないんだよ。
  若い頃は覚えられたのに! って思うのは、それは若いうちは知り合いも少ないからね。でも年齢を重ねれば友人や知人は増えていくし、テレビで見る芸能人の数も格段に増えてくる。そうすると、生まれつき記憶力のいい人ならともかく、そうでない人はどんどん人の名前なんて忘れていっちゃうのが当たり前だよ。
  ワタシの場合、たまにトークイベントに出演したりなんかすると、お客さんに声をかけられることがあるのね。「とみさわさん、どうも!」とか笑顔で言われて“ああ、この人は知ってる人だなー”とは思うんだけど、名前が出てこない……。「あなた誰だっけ?」とは言えないしねぇ。
  そこで、こちらが相手の名前を忘れているのを悟られないように、とりあえず無難に「先日はどうもー」とか言っちゃう。知り合いなら“先日”会ってるのは間違いないはずだもんね。さらに「あれからどう?」とか「相変わらず元気そうだねー」とか「メガネ変えた?」とか、テキトーなことをどんどん畳み掛けるんだ。
  そのうち相手が自分のことをポロっと漏らしたら、それを手掛かりに身元を特定させていけばいい。ま、あきらかに“こいつ、オレのこと覚えてないな?”ってバレてるだろうけどね。
 そんな回答では満足できない! と思ってるかもしれないので、発明王ドクター中松の言葉を少し引用しよう。ドクター中松は『頭をもっと良くする101の方法』という本の中で、頭を良くするための経文として「ケチョウスピゾケピケアイキ」を唱えろ、と言ってるのね。

 ≪頭の「ケ」は消すということである。先入観を取り除くことが、新しい発想のスタート地点なのだ。
「チョウ」は調査である。(中略)
「ス」はスジのス。論理性のことだ。
「ピ」はひらめきのピカである。
「ゾ」は造形のゾウ。造るという意味である。
「ケ」は造った後、検査をすることである。
「ピ」はここでもう一度ピカで困難を乗り越えるという意味である。
「ケ」はおなじくもう一度検査する。
「ア」はアセンブルのア。アセンブルとは、最終的にすべての情報を集めることだ。
「イキ」は、世の中に生かすことである。(P73より)≫

 「ピ」が2回あったり「ケ」なんか3回も出てくる。このグダグダ感がたまらないね。頭が良すぎる人って、我々凡人から見るとひと回りして変人に見える。これは水道橋博士が著書『藝人春秋』の中でも、認知科学者の苫米地英人氏を称して「天才=バカボン」の法則として看破していたっけ。ドクター中松、やっぱ最高だな。

 3つめはfacebookについての悩みです。友達の投稿を読むのは楽しいのですが、「いいね!」をつける作業が、正直めんどくさく思うときがあります。ブログのように読み流すことができればラクなんですが、なかなかそれができません。ちなみに、人と関わり合うのが嫌いというわけではなく、会って話をしたりするのは大好きです。



『真の強さを求めて
 /牛尾 進』

(2003年/武田書店)

「いいね!」を押せ!
突き指するまで押せ!

 本当にいい投稿にだけ「いいね!」をつけたい、でも人づき合いを考えたりして、つい不本意な「いいね!」を押してしまう……。あんこちゃんだけでなく、そういう悩みを持ってる人は多いんだろうな。SNS時代って便利なようでいて、むしろめんどくさくなってるよね。
  そういうときはとりあえず頭を空っぽにして、片っ端から「いいね!」しちゃえばいいんじゃないの?とワタシなんかは無責任に思うんだけど、ま、それができないからこうして相談なさってるわけでね。
  ここはひとつ、逆に考えたらどうだろうか。友達がfacebookで何か書いたら、本来の正しい対応はその1つ1つに心のこもったコメントを書き込んであげることでしょ? でも、いちいちそれをするのはめんどくさい。気の効いたひと言を考えたりしなきゃならないからね。
  ところが、facebookにはそういうめんどくさがり屋さんのために、とても便利な「いいね!」ボタンがある。お友達の正直ど〜〜でもいい書き込みにも、とりあえず「いいね!」しておけば、「アナタの書き込み、いつも楽しんでるわよ」という合図になるの。
  なあんだ、「いいね!」があってよかったじゃないか〜。……っていうふうには思えるでしょ?
 ここでなんでこの表紙? と皆さん思ってるかもしれないけど、この『真の強さを求めて』っていうのは、ワタシが大好きな格闘家の自伝でね。著者の牛尾進氏は、物心ついたときから負けん気が強くて、「日本一強い男になる」という夢を持っていた。そのため、朝から晩までケンカに明け暮れるような日々を送っていたの。
  小学生のとき、自分に魂を入れるため右足にベンジンをぶっかけて火をつけて大火傷したり、中学では入学早々AからHまである8クラスすべてに乗り込んでいって生意気なヤツを片っ端からシメていったり、とにかく激烈な生き方を貫いてきたというたいへんな人なのね。
  大人になってからのある日、スナックでヤクザ者とケンカになったときの描写がすごい。

≪私は右手を軽く浮かせて構え相手の一発目に右足を合わせて飛ばす気でおり睨み合いました。その時相手はシュッ!の声と同時に左のフェイントに続けて右のストレートを私の顔に目がけて打ち込んできました。私は右足の前蹴りを相手のボディにカウンターでブチ込み、相手がうなった瞬間、相手のノドにノド輪のコブラクローを決めて足をかけて倒しました。さらに殴ろうと思い拳を振り上げたのですが、なぜかそこでやる気が起きませんでした。(P51より)≫

 勝てることがわかっている相手を殴ろうとしている自分に冷めた牛尾氏は、このあと自ら謝ることで相手のメンツを立ててやり、場を丸く収めるのね。もうなんつーか映画の世界。“コブシで会話する”ってこういうことだよね。そういう人達に比べたら、「いいね!」ボタンを押すか押さないかなんて、悩むほどのことじゃないぞ! どりゃあー!

次回もお楽しみに!

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