-
こんにちは。いつも「古本珍生相談」を読ませていただいています。読者からの相談に古本(それも珍書で!)回答するという無茶なアイデアに、毎度びっくりさせられたり笑わされたりしています。
それで、私のことではなく、とみさわさんのことをお尋ねしたいんですが、読者から寄せられる相談に古本で答えるって、よく考えたらなかなか難しい仕事ではないかと思うんですよね。毎回、どんなふうにして回答を導き出しているのか、フルチン創作の秘密を教えていただけませんか。(30代/来月からフリーライターの元編集者)
『俺んち、ヤバい!?』
哀川翔
(2011年/東邦出版)
相談からキーワードを抽出し
該当するジャンルの本を漁る
いや、よくぞ聞いてくださいました。フルチンの秘密ね。これ、最初に企画を思いついたときはいいアイデアだと思ったんだけど、いざ連載を始めてみたら、とにかく手間がかかることがわかって、いまは毎月しめ切りが近づくと後悔の連続よ。
なぜ手間がかかるかというと、皆さんから寄せられる相談が「真剣な悩み」ばかりだから。なかなか結婚に踏み切れないとか、受験や就職への不安があるとか、そういう人生を左右する選択に対して、ぼくのようなテキトー人間がアドバイスしていいのだろうか? それも古本で!
当然、いい加減に答えるわけにはいかないので、回答に使う本もじっくり探すことになるよね。そこにいちばん手間がかかる。原稿を書くのはそんなに大変じゃないけど、どの本で答えるかを決めるのに、いちばん気をつかうんだな。
では、ここで毎回どんなふうにして原稿の構成を立てているのか、シミュレーションしてみよう。
たとえば「わが家には4人の子供がいるんですが、なかなか言うことをきいてくれません。この子たちを捨てて逃げ出したくなるときもあります!」という悩めるママさんからの悲痛な叫びが寄せられたとしよう。その場合、「子育て」「家族」「親の愛」といった切り口をキーワードにして、使えそうな古本を探すことになる。
いま、うちのマニタ書房の店頭には、だいたい4000冊の在庫がある。いくら店主のぼくでも、これをすべて読破しているわけがないし、ましてや中身を把握なんかできているはずがない。だから、先ほどのキーワードを頼りに、該当しそうなジャンルを見ていく。うちの店でそれっぽいジャンルというと「極端配偶者(国際結婚)」か、「ハウツー本」か、「不良(不良って案外と家族仲はいいからね)」か…。
で、それよりもピッタリなジャンルがあることに気づく。「大家族」だ。ぼくは昔から大家族ものって大好きで、それに関する本もいろいろ集めてきたんだよね。それらを次々に抜き出して、まずは目次を見ていく。そこで、寄せられた相談に答えられそうなトピックを探していくんだ。
たとえば、子沢山で知られる俳優の哀川翔さんが書いた『俺んち、ヤバい!?』なんて本がある。パラパラとめくっていくと、目次に「第3章 親も努力を」という項目があった。これはテーマに合いそうだ。早速、そのページを読んでみると、講演会でファンから言われた「子供がなかなか言うことをきかないんですけど…」という相談に、自分の経験を例にして答える一節があった。
そもそも大人が号令をかけないから、子どもがなんでも勝手にやるようになるんだ。
「ご飯食べなさい」
「風呂に入りなさい」
当たり前のことだけど、これは大事だよ。
(中略)
それをやらないのは大人がダラダラしたいからだ。家屋に向けるはずの時間を自分勝手な時間に使いたいから「うちは自由だから」なんて言ってダラダラしようとしてるだけ。ビシッとタイムテーブルを決めて家族全員が団体行動をすれば、ダラけた子どもにはならない。
(中略)
まず大人が変わること。そしたら子どもはちゃんとすると思うよ。
(P57より)
さすがアニキ、いいこと言う。もうこの記述を見つけただけで、原稿の半分は書けたも同然だ。
マジメとバカの
バランスをとるように
こうして回答に使える本を探すわけだが、しかし、ここは「古本珍生相談」である。略してフルチン≠ニ言ってるような連載が、真剣に回答をするだけでは、ナンセンスの神に申し訳が立たない。そこで、後半ではあえてハズした回答をするなどして、マジメとバカのバランスをとったりする(前半と後半は逆の場合もある)。
「子沢山」「大家族」といえば、カルガモ一家なんてのが話題になったよなー、あれを採り上げた本もたしか仕入れておいたはず…と、「どうぶつ」ジャンルの本を見ると、ちゃんと棚にささっていた。『カルガモ一家の愛情物語』である。
例によって目次を見ると、第2章に「落とし穴」という悲しげな項目がある。ああ、道路の側溝に開いた穴から子ガモが下水に落ちたなんてニュースを見たことあるぞ! あれは非常に可哀想だったし、親ガモからすれば都会で子育てをする難しさの最たるものじゃないか!
『カルガモ一家の愛情物語』
東京新聞 写真部
(1986年/PHP研究所)
ってなわけで該当の箇所を読んでみると、こんなことが書いてあった。
子ガモたちは次々に上陸していくが、小さな二羽はどうしても上陸出来ない。と、母ガモがその方に気をとられているうちに、先に岸に上がっていた二羽が、また昨日と同じように溝に落ちてしまった。
約十五分、脱出させようとしていた母ガモの動きが急に変わった。何かある─。
木立の上にカラスが二羽やって来て、溝に落ちた子ガモたちを狙っているのだ。やがてカラスは急降下。接近してくるのを待ち構えていたように、母ガモはスイと飛び立って空中戦に。カラスは十五分間に三回襲って来たが、その度に「グエッ、グエッ」「カァー、カァー」と、せめぎあう声が明け方の静かな空気を揺るがす。やがて母ガモの懸命な防戦に根負けしたのか、カラスはついに飛び去っていった。
(P71より)
こうした記述から何を読み取って、どう回答に活かすか。さらに、どのように前半とのバランスをとるか。そのあたりはぼくの秘伝の部分なので、ここでは明かさないでおこう。
というわけで、ここでお知らせです。来たる8月22日、江戸川区立松江図書館にて講演会をやらせていただくことになりました。題して「出張!古本珍生¢樺k 〜本の数だけ人生はある〜」。古本の楽しさをお話しするとともに、ライブでフルチン≠やってみようという試みでもあります。
出張!古本珍生¢樺k 〜本の数だけ人生はある〜
講師:とみさわ昭仁(特殊古書店「マニタ書房」店主)
校條 真(合いの手係:「ナビブラ神保町」編集長)
日時:8月22日(土)19:00〜20:30(18:45開場)
対象:大人の方 30名
会場:松江区民プラザ(松江図書館の2階)
受付:8月2日(日)16:00から電話・窓口にて受付
悩み事があったらどんどん聞いてください。
本は"人生の知恵と経験"が詰まった宝庫だから、
なにかしらの回答が引き出せると思います!
お悩み相談はこちらまで!→ navibura@fusansha.co.jp
- 第66回:12月のお悩み(和歌山の「ふるほんガール」/38歳)
- 第65回:11月のお悩み(これでも花も恥じらうOL。彼氏はいます、念のため/27歳)
- 第64回:10月のお悩み(精密機器メーカーの男性エンジニア/29歳)
- 第63回:9月のお悩み(『Stereo Sound』を愛読していた会社員/50歳・男性)
- 第62回:8月のお悩み(たまに金縛りに遭うサラリーマン/39歳)
- 第61回:7月のお悩み(神保町古書店勤務/“力仕事はつらいよ”の31歳・女性)
- 第60回:6月のお悩み(ナカよりソトを愛するホッピー女子/28歳)
- 第59回:5月のお悩み(バーモントカレーしか食べられない会社員/28歳)
- 第58回:4月のお悩み(地方公務員の戸籍課担当女性/29歳)
- 第57回:3月のお悩み(設計事務所勤務の建築士の男/43歳)
- 第56回:2月のお悩み(某区役所勤務の自称・実直な男性/52歳)
- 第55回:1月のお悩み(本の積み下ろしで腰が痛い大手書店員/29歳)
- 第54回:12月のお悩み(残業多しの印刷営業マン/34歳)
- 第53回:11月のお悩み(あたしもカビ臭いOL/36歳)
- 第52回:10月のお悩み(大人恋愛≠ヘうまくやらなくちゃ!の次長/43歳)
- 第51回:9月のお悩み(竹橋・気象庁近くの会社勤務OL/28歳)
- 第50回:8月のお悩み(干し豆腐料理も必ず注文する会社員/41歳・男性)
- 第49回:7月のお悩み(昼酒大好きフリーライター/55歳・男性)
- 第48回:6月のお悩み(「お酒はビールだけ」の独身OL/33歳)
- 第47回:5月のお悩み(精密機器メーカー営業職/31歳・独身男性)
- 第46回:4月のお悩み(生まれてこのかたウソをついたことがない大ウソ人生の主婦/36歳)
- 第45回:3月のお悩み(中堅商社勤務のサラリーマン/男性/33歳)
- 第44回:2月のお悩み(ケツの穴が小さい生保の部長/男性/51歳)
- 第43回:1月のお悩み(栃木のネコネコ屋/女性/29歳)
- 第42回:12月のお悩み(聖母になんてなりたくない/33歳・主婦)
- 第41回:11月のお悩み("男気"度0%の中小企業サラリーマン/31歳)
- 第40回:10月のお悩み(来春の大学受験生/女子高校生18歳)
- 第39回:9月のお悩み(週末ハムサンド/28歳・女性)
- 第38回:8月のお悩み(馬超五十五/59歳)
- 第37回:7月のお悩み(普段はいい夫・いい父親のストレス山積みサラリーマン/42歳)
- 第36回: 6月のお悩み (47歳・奇食番外地/まだ部長補佐)
- 第35回: 5月のお悩み 38歳/本来、怠け者のサラリーマン
- 第34回: 4月のお悩み 42歳/メーカー総務部勤務
- 第33回: 3月のお悩み 42歳/無垢な季節さん
- 第32回: 2月のお悩み 49歳/未婚のミッコ
- 31回: 1月のお悩み 29歳/ララ・クロフトにはなれない女
- 第30回: 12月のお悩み 34歳/「読書虫」の女
- 第29回: 11月のお悩み 30代/息子大好きなママ
- 第28回: 10月のお悩み 43歳/自由って誰が言った?フリーランス女
- 第27回: 9月のお悩み ごはんは1人で食べたい男/大学職員
- 第26回: 8月のお悩み 30代/来月からフリーライターの元編集者
- 第25回: 7月のお悩み 30歳一歩手前/イベント企画会社のマネージャー
- 第24回: 6月のお悩み 19歳/麺カタ脂少なめニンニク味玉
- 第23回: 5月のお悩み (31歳/結婚と起業の間で悩むサラリーマン)
- 第22回: 4月のお悩み (33歳/そば子)
- 第21回: 3月のお悩み (40歳/ライター)
- 第20回: 2月のお悩み (37歳/女事務員)
- 第19回: 1月のお悩み (38歳/千代田区の某課長)
- 第18回: 12月のお悩み (44歳/妻子ありのフツーの会社員)
- 第17回: 11月のお悩み (41歳/日本語にうるさい"昭和な女"より)
- 第16回: 10月のお悩み (41歳/独身のふつうの会社員)
- 第15回: 9月のお悩み (48歳/友達自慢の父)
- 第14回: 8月のお悩み (30歳/女性/OL)
- 第13回: 7月のお悩み (いろいろ焦るアラサーちゃん/女性)
- 第12回: 6月のお悩み (気ままに見える自営業/40歳・男性)
- 第11回: 5月のお悩み (新婚ホヤホヤのOLさん/35歳)
- 第10回: 4月のお悩み (中間管理職なんてくそくらえ!男性/38歳)
- 第09回: 3月のお悩み (“これもカード地獄!?”のOLさん/28歳)
- 第08回: 2月のお悩み (ハクビシン/34歳)
- 第07回: 1月のお悩み (ITブラック企業勤務/34歳)
- 第06回: 12月のお悩み (人材開発/39歳)
- 第05回: 11月のお悩み (電設関係/31歳)
- 第04回: 10月のお悩み 婚約者も仕事も"彼氏"も大事(会社員/33歳)
- 第03回: 9月のお悩み "ハマちゃん"なお気軽サラリーマン(会社員/42歳)、あまちゃん(独身OL/33歳)
- 第02回: 8月のお悩み あんこちゃん(主婦/29歳)
- 第01回: 7月のお悩み M山U次郎さん(会社員/54歳)
- 2021年年月
「あぶらが好きさ」 - 2017年11月
「ナビブラ特集アーカイブ」 - 2015年10月
「第56回「東京名物・神田古本まつりへ行こう!」」 - 2015年09月
「残暑は汗をかいてブッ飛ばせ! 食べ比べ 酸辣湯麺」 - 2015年08月
「人の流れが神田錦町へ続々と! 憩いの広場、テラススクエアへ行こう!」 - 2015年07月
「祝8周年! 末広がりの面白さ 神保町花月」 - 2015年06月
「これなら雨の日が待ち遠しい!? 雨の日グッズ&サービスのあるお店」 - 2015年05月
「チャレンジャー達を応援! 新店舗さん、いらっしゃ〜い!」 - 2015年04月
「祝開店60周年! やっぱり「さぼうる」でサボるのが好きっ!」 - 2015年03月
「神保町の新トレンド! これってマジかぁ!? “缶バッチな人”増殖中!」 - 2015年02月
「乙女心をくすぐるスイーツパンの誘惑 メロンパン食べ比べ!」 - 2015年01月
「1年のはじまりは、ズルズルすすって、クイクイ飲もう! 新春は蕎麦屋で日本酒」