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    2012〜15年掲載

10月のお悩み

 先日、江戸川区の図書館でのトークイベントに参加いたしました。予想を超える意外な内容に、大いに刺激を受けました。ですが、聴講したがために、私にも悩ましいことが…。
 現在、私はフリーランスで雑誌や書籍の編集&ライターをしております。とみさわさんはそうした世界の大先輩! マニタ書房の話を聞くにつれ、私も"特殊書店"をやってみたい!!という希望がふつふつと。いえ、とみさわ先生に「弟子入りしたい!」と思うようになってしまいました。
 公言するようなことではありませんが、私自身"特殊な嗜好"を持て余しているのです。生業の本づくりだけでは、それらを生かしきれないのです。どうか、私に愛の手を!

(43歳/自由って誰が言った?フリーランス女)

 


『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』
 北尾トロ

(2000年/風塵社)

副業がないとキツい。
それが古本屋という特殊な商売

  ひたすらぼくのことを誉め称えるような相談を採り上げてしまい、いまごろ読者の皆さんは自己を礼賛する信者ツイートばかりをRTするどこかのジャーナリストを見る眼でこのページを見ていることと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。寒くなってきましたね。

  相談者さんも古本屋をやってみたいという。それも普通の古書店ではなく「特殊古書店」を。しかし、それはあんまりお薦めできないなー。なぜか?

   ぜんぜん儲からないから!

   はい、言い切った。でも本当なんだからしょうがない。いや、最初は少しぐらい儲かるだろうと思っていたのよ。ライターやめて古本屋に専念するつもりでいたんだから、多少は利益が出てくんなくちゃ困る。でも、いざ店づくりを始めたら、どんどんおかしな方向へいってしまって、いまじゃ「特殊古書店」だよ。その特殊古書店は、一部の物好きさんに支えられてやっているようなもんだけど、とにかく儲からない。そりゃそうだ。世間一般での売れ筋な本に背を向けて、なんだかよくわからない本ばかりを集めてるんだもんね。

  編集者あるいはライターという人種は基本的に本好きなので、古本屋に憧れる人は多い。ぼく自身、先輩ライターの北尾トロさんが古本屋(実店舗を持たないネット古書店だけど)を始めたのを知って、自分にもできるかなあと思ったぐらいだから、相談者さんの気持ちもよくわかる。

  とはいえ、古本屋を継続していくのは楽じゃない。開業するのはそんなに難しいことじゃないと思うし、資金もそんなに多くは必要としない。でも、日本中から古本屋がどんどん消えていってるのも現実だ。そしてそれは、お金のことと無関係じゃない。

  トロさんが古本屋開業にまつわることを書いた『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』に、開業当初の売上げについて触れた箇所がある。

   開業10ヵ月時点での売り上げは月額15万円から18万円。利益は月額7万円から10万円。仕入れが多い月は5万円しか利益が出ないこともある。子供の遊びじゃないかということもできるし、赤字じゃないだけでもいいと考えることもできる。平均的な意見としては、副業で10万円稼げるならまあまあ、というところではないだろうか。
(P101より)

   そんなもんである。実店舗を持たないオンライン古書店でそれっぱかりなのだから、店舗を借りたらわずかな利益なんて吹っ飛んでしまう。トロさんも、ぼくも、古本屋の他に仕事を持ってるからなんとかなっているようなもんだ。

  …とはいえ、古本屋には古本屋でしか得られない喜びもある。

   小さな楽しみをひとつ、またひとつ積み上げていく。そして、1ヵ月たったら、今月もいろんな本が読めたし、オンラインの友人も増えたし、いくらか利益もあっておもしろかったなと思う。自己満足かもしれないが、オンライン古本屋なんて、それでいいのではないだろうか。よし、来月も続けていこうと思える金額が、その人にとっての儲けということになるのではないかと、ぼくは思うのだ。
(P102より)

  ぼくはこの言葉から「オンライン」を差し引いて読んだけれど、それでもまったく同感だ。

2015年特殊古書店の棚

  古本屋開業のノウハウ自体は、世の中にいくらでも解説した本があるので、それを読んでみるといい。マニタ書房にも何冊か並んでいる(宣伝)。でも、特殊古書店となると、それを語るのは難しい。

  ぼくがマニタ書房を開業する決意をしてから、実際に店をオープンさせるまでにかかったのは8ヵ月間だ。けれど、この特殊古書店というアイデアを実現するためには、50年の時間を必要とした。これはノウハウとして教えられるようなものではないから、弟子入りされても困るんだぜー。



『マニタ書房のパソコン関連書籍コーナー』
 

  ひとつだけ、ヒントをあげよう。特殊古書店マニタ書房のなかでも、ひときわ店の特殊っぽさをが象徴しているジャンルがある。それはなんだろうか?

  オカルト? 刑罰? 人喰い? 裸族? 飲尿療法?

  まあ、それらもマニタ書房の個性を形づくっている要素ではあるが、ちょっと違う。ぼくがこの部分こそマニタ書房のセレクトの妙だ、と思っているのは「ハウツー本」コーナーなのだ。

  人は何かを覚えたい、何かを始めたいと思ったら、とりあえず入門書を読もうとする。そのニーズに応えるために出版社はハウツー本を作るし、本屋さんもそれらのハウツー本を取り扱う。しかし、マニタ書房にそれが必要だろうか? マニタ書房が『5分で解る!マイナンバー制度』なんて本を置いたって仕方ない。それなのに「ハウツー本」コーナーがある。


  その理由を言葉で説明するのはたいへんに難しいので、実際に店内の写真を見ていただくのが手っ取り早いだろう。ここではあえてハウツー本のコーナーではなく、「パソコン関連書籍」のコーナーをお見せする。そこにどんな本が集められているか。


   …写真、見ましたか。2015年にこんな感じの本を集めて積極的にプッシュしているのが特殊古書店マニタ書房なのである。そりゃ儲かんないわけだよね。


  どうだろう、相談者さんは本当にこんなことをやってみる覚悟がおありですか? それよりも、ぼくは相談者さんが「特殊な嗜好を持て余している」ということの方に興味があるなあ。今度、それをこっそり教えてください。

次回もお楽しみに!

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