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わたしは遭難恐怖症で困っています。海外旅行に出かけたときなど、高所恐怖症ではないので飛行機に乗ることはできますが、どこかの山を通過中に「もしもここで飛行機が墜ちたら?」と、遭難したあとのことを想像してしまうと恐ろしくなるのです。 雲の上を飛んでいるときは地面が見えないのであまり気になりませんが、山間部や海上を低空で飛ばれるともうダメです。できることなら墜落の衝撃で即死したい。うっかり生き延びてジャングルの中で遭難生活をするなんて、精神が耐えられそうにありません。 海外旅行自体は大好きなのですが、遭難するのが怖いばかりに回数も増やせないし、あまり遠くの国にも行けません(移動距離が長ければ、それだけ遭難する確率も高まりますよね?)。どうしたらいいのでしょうか…。
(29歳/ララ・クロフトにはなれない女)
『ガス・おなら恐怖症からの脱出』
日本自然療法研究会 編
(2001年/日正出版)
本当に厄介なのは
何かを怖れる自分の心
恐怖症(フォビア)問題は難しいですなー。ぼくにもいくつかあって、もっとも自覚しているのは先端恐怖症。尖ったものが怖いというやつね。自分が手にしているぶんには平気だけど、視界の中で他人が尖った物や刃物を振り回しているのは怖くて見ていられない。だから寿司屋のカウンターとかも、わりと苦手。
それから落下物恐怖症。上から物が落ちてくるのが怖い。高所恐怖症ではないので、高いビルに登るのは平気だけど、高いビルの真下を歩くのがダメ。どうしても上から何かが落ちてきそうな気がして、足がすくんじゃうんだ。だから工事中のクレーンの下を通過するのなんて絶対無理。いつも遠回りしちゃう。
さて、相談者さんは遭難恐怖症だという。そりゃ、誰だって遭難なんかしたくないけど、普通は飛行機に乗っていても遭難したあとのことなんて考えない。想像力が豊かなんだね。
しかし、遭難恐怖症という言葉はこれまで寡聞にして聞いたことがない。おそらく死恐怖症(タナトフォビア)、孤独恐怖症(モノフォビア)、動物恐怖症(ズーフォビア)、暗所恐怖症(ニクトフォビア)といった、いくつかの要素が複合して遭難への恐怖を植えつけているのだろう。
ぼくは精神科医ではないので、これらの恐怖症をひとつひとつ取り除いていくことはできないけれど、珍本でそれを少しでも薄められたらいいな、とは思う。たとえば『ガス・おなら恐怖症からの脱出』なんて本はどうだろう。そんな恐怖症があるのかよ!? と思うだろうが、本になってるんだからあるのだ。
ガス・おならの恐怖から逃れるためには、まず、今の自分の状態を把握することが大切です。ここでは、おならを増やす病気とお腹のガスを留めておくことで生じる病気についてです。これらを知ることにより、今あなたが抱えている悩みの実体がどのようなものであるかをはっきりと認識しておきましょう。
ガス・おならへの恐怖は〈ガス・おなら恐怖症〉ともいえる精神的要素が強い症状を生みます。
(P24より)
これ、マヌケなようでいて、わりと本質的なことが書いてあると思う。「ガス・おなら」に限らず、あらゆる恐怖症は精神的なものなんだよね。だから、実際にはたいした害がないにもかかわらず、自分の中から生まれた過剰な恐怖心が、自分自身を苦しめてしまう。
人生なんて屁のようなものだ、と言ったのは深沢七郎だが、遭難して人生が終わるのも、人前でおならをぶっ放して恥をかくのも、そう大差ないよ。そんな風に思えば、少しは気が楽になるのではないだろうか。
虫にたかられても
命さえあれば大丈夫!
と、ここまで書いておきながら、さすがに飛行機事故をおなら扱いするのは無理があるよなあ、と自分でも感じている。なので、もう少し話を進めよう。
人間が生きていく中で事故や災害に遭遇するのも、遭難してしまうのも、すべては運命のなせる技だから、こればかりはどうしようもない。だったら、遭難しても一人で生きていけるだけのサバイバル術を身につけるのがいいのではないか。自分はどんな逆境でも生き抜くことができるという自信は、恐怖感を取り除いてくれるはず。
『たった一人の30年戦争』
小野田寛郎 著
(1995年/東京新聞出版局)
小野田寛郎さんを覚えているだろうか?太平洋戦争のときにフィリピン・ルバング島でゲリラ戦に従事し、幸い命は助かったものの、終戦を知らないままジャングルの中で生き延びて、終戦後30年も経ってから日本に帰ってきたという最後の帰還兵だ。この方の回顧録の中に、こんなことが書いてある。
私の左耳は、いまもまったく聞こえない。
ジャングルで寝ているとき、アリに鼓膜をかじり取られたためである。
突然、「ガリ、ガリッ!」と雷が落ちたような大音響と、気が狂いそうなほどの激痛で、深夜、私はとび起きた。
(P124より)
えー、恐怖心を取り除くどころか、いっそう煽っているような気がするけど、続けます。
ムカデも油断できない敵だった。こいつに手をやられると腕全体が丸太のように腫れ、やっと腫れが引いたあとも傷口が化膿する。私の右手首には、いまもその傷跡が残っている。 落ち葉の下には、よくサソリがひそんでいた。
露天で寝るときには、三メートル四方の落ち葉や朽ち木をきれいに取り除かなければ危ない。
それでも、明け方ふと目を覚ますと、枕にしている水筒の下にいたことが何度かあった。
胴回りが太ももぐらいあるニシキ蛇もいた。毒蛇にやられるとイチコロだが、蛇は岩があって湿っぽい「ヘビ山」など三カ所に生息地が決まっていたので、私たちは足早に素通りした。
(P126より)
こんなの読まされて、ますます遭難なんかしたくないわよ! と思うかもしれないが、サバイバル生活ではこれらのタンパク源が命をつなぐ糧になるんだよねー。最初は虫もヘビも恐怖の対象でしかないだろうけど、大丈夫、大丈夫。腹が減ってくればみんなうまそうに見えるって。
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