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このほど父が亡くなりました。天寿を全うしたと言えるほどの高齢でしたから、私はそれほど悲しくはないのですが、さすがに母は落ち込んでいるようで、何も話さなくなってしまいました。それで、父の死後に押し寄せる様々な手続きに悩まされています。お葬式の手配はもちろんのこと、役所への書類の届出、各種保険の手続きなどなど、やるべきことが山積みです。 母は何もしてくれませんから、すべて私がやることになります。でも、昔から私は記憶力が悪くて、ちょっとしたことでもすぐに忘れてしまうのです。何年も前に読んだ本の一節なんかは、いつまでも覚えているんですが…。なんとか、無事に葬儀とその後のあれこれを済ませるいい方法はないものでしょうか。
(49歳/未婚のミッコ)
『徹子の部屋2』
テレビ朝日
(1978年/全国朝日放送株式会社)
忘れそうなことは
外部に記録すれば楽になる
わかる! わかりすぎる! ぼくもかれこれ4年前に妻を亡くしていて、やっぱり様々な手続きの煩雑さに悩まされたな。しかも、相談者さんと同様に、生まれつき記憶力が悪いときてる。何をしなきゃいけないか、何をどこまでやったか、す〜ぐわかんなくなっちゃうんだ。そのくせ、7年前に吉祥寺で『クローバーフィールド』の爆音上映を観たとき、隣の客の足がすごい臭かったのはいまでも覚えていたりする。どういうこっちゃ。
ごくまれに記憶力抜群の人がいるけど、むしろそっちのほうが少数派だろうね。たいていの人は、興味のないことなんてすぐに忘れちゃうんじゃないかな。だからだと思うけど、世の中には「記憶術の本」なんてのがたくさん出版されている。だけど、個人的にはああいうのは眉唾っぽいと思っているので、ここでは紹介しない。
そういえば、子供の頃にテレビで「神のような記憶術を持つ男」ってのを見たことがある。その男、無作為に書かれた数字を200桁とかその場で覚えていくわけ。で、ケッサクなのは、ただ数字を見て覚えるんじゃなくて、「記憶するコツは側頭葉を刺激することだ!」とか言って、数字を見ながら両手に持ったタワシでこめかみをガシガシこするんだよ。見事にそこだけ禿げ上がってたね〜。
さて、俳優さんというのはセリフを覚えなければならないし、テレビに出てるタレントさんも多少のアドリブあるだろうけど、ある程度は台本を覚えるものだ。みんな記憶力いいんだな〜とぼくなんかは感心してしまうんだが、世界を旅する兼高かおるさんなんかは、そうでもないようだ。『徹子の部屋』でのトークを収録した本にこんなことが書かれている。
徹子 あたくし「世界の旅」拝見してると、ほんとに兼高さんが、そこでごらんになったことを、とってもわかり易く、そして兼高さんらしく、いつもお話ししてらっしゃるでしょう。そしてびっくりするのは、全部ごらんになったことを憶えてらっしゃる?
兼高 あのぉ、現地で見たものっていうのは、全部自分でノートしますのよ。あのね、自分の記憶っていうのと、ものすごく違いますから。ですから必ず書くのね。非常に幼稚に書くわけ。何々したとか、はっきり書きます。それで記憶とどんなに違うかっていうと、色ですら違うんですね。記憶というのは。
(P217より)
ね? こういう人でも手帳に頼っているのだから、安心していい。覚えられなきゃメモればいいのだ。すべて覚えようとするから悩ましいのであって、忘れそうだなと思ったことはすべて外部に記録する。そうすると人はずいぶん楽になれる。実際、ぼくも相当なメモ魔だよ。その日食べたもの、出掛けた場所、思いついたアイデア、なんでも手帳にメモしている。
さすがにいまは手帳をスマホに切り替えたけど、映画館の暗闇でスマホの画面を点けるわけにいかないので、やっぱり紙の手帳も欠かせない。映画を見ながら手探りで感想なんかをメモしてるんだ。ときには「隣の客の足が臭い」とかも書いておいたりして。
忙しいのはいいこと
家族で一緒に乗り越えよう
…と、メモを取ることで記憶の弱さをカバーするというアドバイスを差し上げたわけだが、そうは言っても、家族の死後にやるべきことが山積みされているのは変わりない。これをどうやって乗り切るか?
身近にそういうことに詳しい人がいればいいけど、そう都合よくいかない。村や町内会による共同体というものが機能していた時代は、みんなで助け合って冠婚葬祭をしのいだもんだけど、いまはそういうつながりも薄れている。
そのかわりに、葬儀社という業種が発達して、様々な些事を代行してくれるようになった。これはこれでありがたいことだけど、その分お金はかかる。葬儀社の人も親切に色々教えてくれるけど、何しろこちらは家族が死んで動転してるから、すべてを覚えておくなんてできない。
『夫が死んだときに読む本』
豊田眞弓、小川千尋
(2005年/日本実業出版社)
まったく困ったもんだな〜というときに便利なのが、ハウツー本だ。ちょうどぴったりの本があるよ。その名もズバリ『夫が死んだときに読む本』だ! 相談者さんの場合はお父様だけど、まあお母さんの立場で読めばやるべきことは一緒。
とりあえず、第1章の目次だけちょっと引用してみよう。
[第1章:夫が亡くなるとどんな手続き・届出が必要になるか]
夫の死亡前後に行なうべき事柄
夫が危篤になったら…
臨終を迎えたら…
死亡届の提出のしかた
通夜・葬儀の日程が決まったらやること
臓器提供や献体登録をしていた場合は?
海外で亡くなったら…
旅先や単身赴任先で亡くなった場合
他殺や自殺、事故死、変死だった場合
(目次より)
なんとも言えませんな〜。この調子で[第2章:夫を葬るさまざまな儀式の進め方][第3章:亡き夫の身の回りの整理をしよう][第4章:遺言の確認と遺産相続のすすめ方][第5章:その後の生活設計と資金確保を考える]と続いていく。
とても便利な本なんだけど、絶対に気をつけなければいけないのは、夫が生きているうちにこの本を買わないことだね。うっかりこんな本を持ってるのを見られでもしたら大変だァ!
それはともかく、家族の死後にやるべきことがたくさんあるというのは、実はいい面もある。それは「忙しさが頭の中を真っ白にしてくれる」ことだ。大切な人を亡くすと、つい、亡き夫や妻を追いかけて自分も"あちら"へ行ってしまいたいたくなる。でも、忙しさがそんなことを考える暇を奪ってくれるんだね。
そういう意味では、あなたが一人ですべてやってしまうのは、遺されたお母様にとっていいことではないかもしれないね。少しずつお母様を元気づけてあげて、できることから一緒に取り組んでいくといいですよ。
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