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    2012〜15年掲載

4月のお悩み

 いつも「古本珍生相談」を楽しく拝見しています。ある日、何気なく「とみさわ昭仁」でWEB検索したところ、最近、本を出されたということでさっそく購入しました。古本屋稼業の苦労や自伝的要素もあって楽しく拝読しました。  で、私も本好きでは人後に落ちないのですが、ゆくゆくは自分の名前で本を出したいんです(それも自費出版じゃなくて)。とみさわさんのように、何か突出した取り柄や体験がないと本が書けないと思いますが、普通のサラリーマンが出版社に本を出してもらうにはどうしたらいいでしょうか?

(42歳/メーカー総務部勤務)

 


『無限の本棚 手放す時代の蒐集論』
 とみさわ昭仁

(2016年/アスペクト)

取り柄も体験も、
最初は「好き」から始まる

  実にプロモーション臭い相談が来たわけですが〜、決してヤラセじゃないのよ。本当にこういう相談が寄せられたの。で、そういうものには全力で応えるのがサービス業の務めだと思うので、ご期待通りに1冊目はぼくの新刊を取り上げてお答えしよう。

  相談者さんは、ぼくに「何か突出した取り柄や体験が」あると思ってらっしゃるようだけど、そんなことはないです。いや、さすがにいまは「珍本」とか「人喰い映画」とか「ブックオフ」とか、とみさわを語るキーワードはいくつかできたけれど、ライターデビューした35年前は何にもなかったよ。

   絵を描くのが好きだったので、漫画家になりたかったけど挫折して、イラストレーターに目標を転じたけどそれも叶わず、高校で立体製図(工業用のイラストレーション)のおもしろさに気がついて、そちらへ進路を定めた。しばらくはそのための会社に勤めて図面を描いていたんだけど…。

   それから数年して、あるきっかけを元に会社を辞め、フリーライターになった。絵から字へ。テクニカルイラストとはまったく関係のない仕事へ転職してしまったのだ。
  最初は芸能ライターとして、タレントやアイドルのインタビューを中心に仕事をはじめたが、すぐにアイドルブームが終息して、芸能雑誌がパタパタと廃刊していった。危機感を感じたぼくは、執筆のフィールドをゲーム雑誌に移した。ちょうどその頃『スーパーマリオブラザーズ』('85)の大ヒットでファミコンブームが巻き起こり、ゲームの情報誌が続々と創刊されていったのだ。編集部に営業をかければ、新作ゲームの紹介記事など、仕事はいくらでもあった。
(P12より)

   なんというか、文章で何かを創作することへの大いなる野望があってライターになったわけでもなんでもなく、ただ「そっちのほうがおもしろそう」というだけの理由で会社を辞めちゃった。まったく無計画な生き方だ。

   アイドルとか歌謡曲が好きだったから芸能ライターになり、ひまつぶしにファミコンばかりやっていたのが功を奏してゲームライターになれた。そうやって、次から次へと自分が楽しいと思えるものに夢中になってるうちに、それぞれの分野の専門家のフリができた、というだけのこと。

  でも、ぼくはそれが悪いことだとは思っていない。どんな取り柄も体験も、最初は「好きだ」ということから出発するものだからね。

コレクト系のネタは、
出版への近道

  さて、相談者さんはご自身のことを「本好きでは人後に落ちない」とおっしゃる。そう言えるだけのものがあるってのは、とても素晴らしいことだ。ただ、本好きといってもいろいろな本がある。どんな本がお好きなんだろう。それによって、目指すべき方向性は変わってくるよね。

  小説なら特定の分野の作品を500冊も読めば、その分野の作品を自分でも書けるようになるかもしれない。あるいは、創作ではなくてその分野の評論集という道もある。小説じゃないけど、ぼくは人が喰われる映画を300本見て『人喰い映画祭』という本を書いた。



『絵本好きが集まる絵本屋さん100』
 MOE編集部

(2008年/白泉社)

  「とみさわさんはプロだから、いいネタを思いついたらすぐに企画を通してもらえるんですよ」と思われてしまうかな。たしかに、プロには多かれ少なかれ実績があるので、企画を出版まで持っていくハードルはアマチュアより低いだろう。だけどハードルがあるのは変わりないから、それを乗り越える努力はプロだってしなければならない。

  これは自分の実体験から言えることだけど、割と手っ取り早く本を出せるのは、コレクト系の本なんだ。ぼく自身、いまほど知名度がないときに出させてもらった本は、自分が集めていたアメリカのベースボールカードの図鑑だったりする。その次に出した『人喰い映画祭』もコレクト系の本だよね。

  うちの店、マニタ書房には「コレクション本」というコーナーがあって、様々なコレクション系の本が取り揃えてあったりする。駅弁に入っている魚の形をした醤油差し(通称:醤油鯛)を集めた本とか、世界の電話帳を集めた本、または世界中の人たちに「シェー!」をやってもらった写真集なんてのもある。

  本が好きというなら、こんな本はどうだろう。『絵本好きが集まる絵本屋さん100』。北は北海道から南は沖縄まで、日本全国に点在する絵本専門書店を網羅したカタログ図鑑だ。

  フリーランスだと、交通費も自分持ちなのでなかなか難しいところがあるんだけど、サラリーマンで、もしも出張が多い仕事だったりしたらラッキーだ。絵本専門店でも、古本屋でも、何かテーマを見つけておく。そして、出張で出かけて行った先々でそのテーマに合ったものを探したり取材していくのだ。何年かかるかはわからないけど、これだけあれば誰にも負けない! と言えるだけの情報を集めたら企画書にしてみるといいよ。

  どうか相談者さんの願いが叶いますように。陰ながら応援してます。それで出版されたものが書店に並んで、やがて古本になったら、ぼくがすくい上げてマニタ書房に並べます。

次回もお楽しみに!

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