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    2012〜15年掲載

6月のお悩み

 私は若い頃から珍しい食べ物が好きで、休暇のたびに全国各地の食べ歩きをしています。とみさわさんも変なラーメンを求めて日本中を旅しているようですし、また珍書もたくさん集めておられます。そういった本には変わった食べ物も紹介されているのではないかと思うのですが、何かオススメはありませんでしょうか。

(47歳・奇食番外地/まだ部長補佐)

 


『アマゾン先生 -世界の無医村で32年-』
 細江静男

(1963年/産報ノンフィクション)

謎の調味料「ツクピー」で 絶品、
"味のアマゾン"亀料理!

  以前、友達と鍋料理をつつきながら、「十二支すべての肉を食べることは可能だろうか?」という命題で議論したことがある。

  子(ネズミ)はたぶんイケる。丑(ウシ)は普通に食べるよね。寅(トラ)はどうだろう、おそらく中国に行けば食べられるような気もするけど。卯(ウサギ)は探せば日本でも食べられるところがある。辰(タツ)は龍と解釈するなら不可能だけど、タツノオトシゴなら漢方にあるだろう…。という感じでアレコレ可能性を考えていくのは楽しい。実際にやるかどうかは別にして。

   『アマゾン先生 ─世界の無医村で32年─』という本がある。32年ものあいだアマゾンの奥地で医療に従事した細江静男氏が、かの地で見聞きしてきた様々なことを記録した本だ。その中の「月夜の亀狩り」という項目に、ピチューという全長50センチある亀の捕まえ方と、その調理法が書かれているのだが、これがとても興味深い。

   (ピチューは)マディラ河の中流の日本人の住んでいる付近に多い。乾期のはじめの八、九月ごろ、交尾期に入ると河畔の白い砂浜へ後ばいにノコノコ歩いてくる。面白いことに決して前方へは進まない。交尾がすむとまた後ばいに河へ入ってゆく。これを月の明るい夜などに、遠くで隠れて見ていて追いかけて捕える。捕えてひっくり返しておけばもう逃げない。一晩に十匹くらいつかまえられる。
(P113より)

  この亀は大変おいしいらしく、白浜に亀が来る時期は亀狩りの男たちでおおいに賑わうという。

  火をたいて甲羅を下に鍋代用として煮る。煮えてくると腹側の甲羅がポカンと取れる。亀のはらわたはきれいなのでこのまま食える。塩とツクピーで味付けすれば天下の絶品、亀の肉のある時季は、味のアマゾンと呼ばれる。
(P113より)

  気になったのは、この「ツクピー」である。いわゆる調味料のようなものだが、たとえば日本の化学調味料は入れた食物だけがうまくなる。ところが、ツクピーには舌の味覚の感じ方を変える作用があり、ツクピーの入ったスープを飲むと、そのあとに食べるものがどれも美味しく感じられるのだそうだ。

  どういう成分によるものなのかは本を読んでもよくわからないんだけど、一家に一瓶、欲しいなツクピー。

野ネズミはうまい!
少なくとも"アレ"よりは

   もう一冊、こんな本も紹介しておこう。『人喰人種の国 秘境ニューギニア』だ。……あ、なにも究極の奇食は人肉である、なんてことが言いたいわけじゃないよ。この本は人の目を引くためにこんな書名にしているだけで、ニューギニアの奥地に住む原住民の生活を紹介している本なのだ。

   こうした原住民は、その見た目のイメージからいつも食べ物を確保するのに苦労しているような印象がある。ところが、本書を読んでみると意外なことにそうでもないことがわかる。彼らの主食は芋で、二ヵ月に一回収穫できるためにほとんど飢えを知らない。

   ただ、芋ばかりでは飽きてくるのだろう。彼らにとってのたまの贅沢はというと…。



『人喰人種の国 秘境ニューギニア』
 風見武秀

(1961年/二見書房)

    彼らの第一のご馳走はネズミで、このネズミも日本にいるような小さなものではない。小猫ぐらいの大きさのある野ネズミである。これを夕方、畑の端などに子供が穴を掘り、その中に芋をいれておいてネズミが穴に入ると上から小さな弓で射るのである。
  この野ネズミをくん製にして岩塩でたべるのが最大の彼らのご馳走になっている。だから、彼らの家にゆくと部屋じゅうに、この野ネズミのくん製がぶらさがっているのだから、薄気味わるいことはこのうえもないのである。
(P72より)

   では、この野ネズミはどんな味なのだろうか。著者が村で出会った少年に「ネズミはうまいか」と尋ねると、少年は「うまい、とても」と答える。続けて、別の老人にも尋ねる。

   「ネズミは、どんな味がする?」  と私はたずねてみた。老人は五十歳ぐらいであろうか。年齢はわからぬが、わりあいに柔和な感じの小柄な男である。 「ネズミは、うまいよ。すくなくとも人間よりはうまい」
(P85〜86より)

   喰ってんじゃねーか!
  食を追求するのもいいが、ほどほどにしておこうね。






次回もお楽しみに!

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