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    2012〜15年掲載

8月のお悩み

  都内にある中堅商社に勤める、定年を目前に控えたサラリーマンです。これまで、あまり家庭を顧みず、仕事仕事に明け暮れながらも、なんとか子ともどもらは親の元を巣立ち、いまは妻と2人暮らしです。
  実は来月(8月)妻の誕生日なのですが、とても困っています。これまで、とくに何かをねだられたことがないのに、今年は急に「プレゼントが欲しい」などと言い出したのです。そういう場合、私くらいの年齢の男は何を贈ればいいのでしょう? やはり宝石でしょうか?
  しかし、それは予算的に無理があります。給料はすべて妻に渡して、毎月その中から小遣いをもらってやりくりしてきたのですから、私自身にそんな蓄えなどあるはずもないのです。  ちなみに私は結婚してこの方、妻からプレゼントをもらったことがありません。…。

(馬超五十五/59歳)

 


『松ぼっくり工芸の楽しみ』
 新倉 勇

(2008年/武田出版)

ここは穏便に!?精魂込めた
松ぼっくり細工を!

  少しの小遣いで長年頑張ってきた亭主に酷い仕打ち!そんな鬼ババアに高いプレゼントなどやるこたぁない!…と一瞬、血圧が上がりかけるが、冷静に相談者さんのメールを読むと、べつに奥様から宝石を買ってくれろ、と、おねだりされたわけではないんだよね?

  であれば、プレゼントなんて大事なのは気持ちだから、なんだっていいんじゃないかな。むしろ、中途半端に高いものを買うより、いっそのこと手作りのものを贈ってみるとかしてはどうだろうか。愛情たっぷり、心のこもったプレゼントということで。

   たとえば我がマニタ書房には『松ぼっくり工芸の楽しみ』なんて本がある。知ってますか?松ぼっくり工芸というのはね、ただ単に落ちてる松ぼっくりを拾い集めて、ボンドでくっつけただけのおざなりな工作じゃないんだよ。松ぼっくりの、ある特殊な性質を利用した、非常に手の込んだ工芸品なのだ。

  松ぼっくりの鱗片の変形は前図にも示すように、乾燥時は裏面が伸び表面が収縮したように湾曲し、高湿度(濡れた状態)時では逆方向に反る。
  経験的に、各種の松ぼっくりの中で黒松のものの変形が最も顕著であるように思う。径の大きいものの下部の大きい鱗片では180°近く変形するものもある。
(P29より)

  ここで表紙の写真を見ていただきたい。真ん中に孔雀をかたどった作品が並んでいるが、これ、左と右の写真はどちらも同じものを撮影している。つまり、これくらい乾燥時と多湿時では形状が変化するのである。

  すごいねえ、たのしいねえ、すぐにでも挑戦してみたくなるよねえ。この本を参考にして、精魂込めた松ぼっくり細工をプレゼントする。奥様、感動しちゃうんじゃないですかー。

  バカバカしい?フザケンナって?しょうがないよ。ここは古本珍生相談だもの。こんなところに相談してきたら、こういう答えが返ってくるのは当然でっす。

年に1度くらいは非日常≠フ、
「一緒の時間」を過ごすこと!

  さすがに松ぼっくりでは、奥様が可哀想な気もしますな。かといって、高価な宝石を買うお金が天から降ってくるはずもなく。さあ、どうしましょうか。買えないのなら、拾いに行くってのはどうか?

   宝石ったって、元は石。地面のどこかから出てきたんだよね。ということは、拾えるってことだ。『ストーン・ハンティング』という本ににこんなことが書いてある。

   ヒスイの産地は新潟県糸魚川市付近です。私の住んでいる浜松から車で片道七時間くらいかかるのですが、本当によく行きました。ときには一週間も十日間も民宿に泊まり込んで、毎日毎日糸魚川市の姫川べりを歩いたり、海岸を歩いたり、山に登ったり、それは大変でした。その石を探している最中で、私と同じようにヒスイを探している人がいるということもわかってきました。
(中略)
ヒスイを探して何年かたちました。ヒスイを探している期間は正直に言って、一山当てようということでやっていたのです。ところが、容易にヒスイが見つからない。それに一人で山へ行くというのは大変なことです。危うく本当の山師になりかけました。こういうことを続けてはいけないと、それ以後石を探すのもほどほどにしていたのですが、やはり一度ストーン・ハンティングの魅力に取りつかれるとなかなかそれから離れられないものです。
(P44〜45より)



『ストーン・ハンティング』
 本郷俊介

(1984年/総合法令)

   まあ、そう簡単に拾えるわけないよね。でも、実は石が出るか出ないかはそれほど重要なことじゃない。奥様と一緒にストーン・ハンティングをした、ということが大事。

  奥様は具体的に「何か物をくれ」と言ったわけじゃなくて、漠然と「プレゼントが欲しい」と言った。それはつまり、仕事ばかりして家庭に目を向けてこなかった旦那様と、そろそろゆっくり過ごしたい、ということではないのかな。

   であれば、何も宝探しだけに限らない。一緒にどこかへ旅行をするのでもいいだろうし、安くてうまいものを食べに行ってもいい。あるいは夫婦そろって「松ぼっくり工芸」に打ち込むのもいいよね。とにかく、年に1度くらいは「一緒の時間」を過ごすということだ。
  ところで、今月はぼくも誕生日なんですよ。プレゼントは要求しないけど、もっと相談をちょうだい。










次回もお楽しみに!

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