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    2012〜15年掲載

9月のお悩み

  映画配給関係の会社に勤めているアラサー女子です。先日、同じ職場の男性から手紙をもらいました。いわゆる"告られた"ということなんですが、問題は私がその人のことをまったく知らないってことなんですね。社内で何度か見かけたことがある程度で、性格も何もわかりません。ルックスはそう悪くないのですが(どちらかといえばタイプ)、それだけでお付き合いするのもなあ…と躊躇しています。さて、どうしたもんでしょうかねえ。ちなみに、同じ会社なんだからメアドは調べればわかると思うのですが、手紙は手書きでした。字は綺麗でしたよ。

(週末ハムサンド/28歳・女性)

 


『点と線の追跡 筆跡で人を見ぬく』
 町田欣一

(1973年/大自然出版)

筆跡は、書いた人の 動作や行動の結果である

  思いを寄せた女性に手紙で気持ちを告げる。いいね、いいね。いまどきロマンチックなことをする男じゃないか。とはいえ、手紙を受け取った相談者さんの立場にしてみれば、相手がどんな人物かわからないのでは、素直に喜んでばかりもいられないよね。

  まず、すごく当たり前のアドバイスをするなら、その男性(仮にAさんとしておこう)のことを周囲の人たちに聞いてみるという方法がある。あなたはAさんのことを知らなくても、同僚の女子たちが何か知っているかもしれないし、男性社員で相談できそうな人がいればなおいい。

   しかし、迂闊なことを聞くと、逆に「あれ?あなたAさんに気があるの?」などと勘繰られてしまうことにもなる。そこは慎重にいかないといけないね。

  「Aさんって、彼女いるの?」─これじゃ、まるでこっちが好意を持ってるみたいだ。 「Aさんって、仕事はできる人?」─うーん、ますます結婚相手を探してるっぽい。

  めんどくせえから直接本人にあたってしまえ!と言いたいところだけど、まあ、それができないからこんなところへ相談を寄せてくださっているわけでね。その気持ちに応えるために、なんとかしなきゃなりませんな。

  なにかいい珍本はないか…と探してみたら、うちの書棚に『点と線の追跡 筆跡で人を見ぬく』なんて本があったよ。

   手紙を書き、書類をつくるときには文章をくふうし、適当な文句を考えるのに時間をつぶす。そして、重要な書類をつくるとき、恋人に手紙を書くときには、ていねいにじょうずに書こうと苦心するけれども、書いた字そのものについてはほとんど無関心である。
(中略)
  欧米においては、筆跡から性格を診断する学問としてグラフォロジー(筆跡学)があって、古くから多くの学者が研究している。特にドイツでは、多くの大学で筆跡学がほかの学科と同じように講義されているほどである。

(P19〜20より)

  筆跡鑑定というのは、犯罪捜査の際に犯人を見つけ出すために使われたりするが、それだけでなく、書き文字の特徴からそれを書いた人間の性格を暴き出すこともできるという。

  "筆跡は文字そのものではなくて、書いた人の動作や行動の結果"だからである。
(P21より)

  この本では、筆跡から読み取れる気質を「Z型性格/躁鬱質性格」「S型性格/分裂質性格」「E型性格/粘着質性格」「N型性格/神経質性格」「H型性格/ヒステリー性格」という5つに分類している。どうにも厄介そうな性格が並びましたな。まあ、犯罪捜査を目的として使われるくらいだから、どうしても性悪説的な読み取り方をしてしまうのだろう。
  どういう文字の特徴がそれぞれの気質に分類されるのかは、スペースの関係上ここでは説明していられないが、相談者さんが受け取った手紙をこの本で分析してみて、どれにも当てはまらなければ、その人は「躁鬱質がなく、分裂質もなく、粘着質でもなく、神経質でもなく、ヒステリーも起こさない人」ということにはなるね。

  どうでしょう、改めてお手紙のコピーでも送ってくだされば、ぼくが鑑定して差し上げるけど……さすがに余計なお世話か。

イヤなら正直に
木枯らしを吹かせよう

  手紙をくれた相手がどんな人か、ミもフタもないことを言えば、そんなのぼくにわかるわけもない。まあ自分の直感を信じて「よさそうな人だな」と思うのなら付き合ってみればいいし、「いや、あれはちょっと…」と思うのならお断りすればいい。

   その際に、どうやって返事をするか。電話?メール?LINE?でも番号やアドレスなんて知らないだろうし、ここはやっぱり手紙をいただいたんだから、こちらも手紙で返してみてはどうだろうか。



『若い女性の手紙の書き方』
 小林道子

(1989年/日本文芸社)

   しかし、いまどきの人は自筆で手紙を書くなんて年賀状くらいのものだろうし、あるいは年賀状すらメールで済ませているかもしれない。でも大丈夫。そんな人のために『若い女性の手紙の書き方』なんて本がある。

   この本には様々な手紙の書き方が載っており、なかでも第13章では「愛の手紙」と題して、交際や求愛、承諾と断りなど、男女関係において手紙をやりとりする際の例文が紹介されている。例えば「求愛を受ける」ときはこんな具合だ。

   お手紙あ・り・が・と・う・ございました。夢ではないかと、何度も何度も読み返しました。そのたびにうれしくてうれしくて─(以下略)。
(P193より)

   あんまりおかしくて、これ以上書き写すのが困難だから以下省略させてもらったが、まあ、こんな感じの文章である。一方、「求愛を断る」場合はどんなものかというと…。

   木枯らしが吹いています。その音を聞きながら考えに考えた末、やはり自分の気持ちを正直に申し上げます。あなたからのお申し出、やはりお断りするしかありません。あなたのことを、決して嫌いなわけではないのです。でも、あなたを特別な男性として心に思い描くことはどうしてもできないのです。現在も、そして将来も─。
(P194より)

  ズドンとくるね。普通、お断りの手紙っていうのは、相手を傷つけないよう言葉を選んで遠回りにものを言ったりするせいで、かえって真意が伝わらずに泥沼化したりするもんだけど、この文例は最初に「木枯らし」が吹いてる時点で「こりゃダメか〜」とわかるようにできている。実に見事だ。

  おそらく、相談者さんはここへ相談してきた時点で、もう8割くらい断る気持ちになってるんじゃないかと推察する。だったら、この文面をまんまコピーして使ってみるといいよ!

次回もお楽しみに!

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