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夫のクリスマスへの取り組みが過剰で困っています。12月に入ると家の玄関先に電飾を取り付け、サンタの扮装はもちろんのこと、鈴の音やトナカイの鳴き声を組み合わせたCDを作り、全力で息子にサンタを信じさせようとしています。うちは、いわゆる無宗教というやつですが、そんな人間がクリスマスを祝うことに私は疑問があります。電気代だって馬鹿にならないし…。
それに、そんなに凝ったことをして、息子がこのまま大人になってもサンタを信じ続けていたらどうしますか。息子が成熟した大人になるためにも、この我が家のクリスマスの悪しき因習を断ち切りたいのです。(聖母になんてなりたくない/33歳・主婦)
『恥の美学』
秋山祐徳太子
(2009年/芸術新聞社)
効率を考えるより、
無駄な恥を大切にしよう!
おもしろい旦那さんじゃないか。いいと思うけどなー。ま、電飾はね、ぼくの家の周辺でもやり過ぎのお宅を見かけるけど、人に迷惑をかけるものでもなし、電気代がかさむ分だけ旦那に残業してもらえばいいんじゃないかな。明るければ防犯にもなるしね。
うちの場合、娘が小さかったときは父(ぼく)じゃなくて娘自身がサンタになってたね。子供用のサンタ服を娘が自分で着て、おもちゃのピアノでジングルベルを弾いたり、踊ったりして盛り上げてた。ピザを届けに来たお兄さん(彼もサンタルック)とツーショットを撮ったりもしたな。
ちゃんとクリスチャンとしての信仰があって、聖なる夜を大切にしているのなら、それはそれで素晴らしいことだと思うが、日本におけるクリスマスは、家族の絆を深めたり、恋人同士の愛情を確認するための道具でしかない。社会全体が、そういう経済の仕組みに取り込まれている。
日本では、クリスマスなんてただのお祭りだ。ハロウィンも同じ。なんなら正月の初詣だって、とくに信心を持たないまま家内安全を祈っていたりする。でも、それでいいじゃないか。人生には無駄なことって必要なんだ。芸術家の秋山祐徳太子は、こんなことを言ってるよ。
効率よく損をしない方法ばかりを考えているよりも、無駄に恥をかきながら生きている人の方が、人間として信用できる。今は効率優先の時代だが、それに慣れると誰が何をやっても同じことになる。無駄をやるのは非常に面倒なことである。しかし、効率に対して恥をぶつけていかなければ人間性は取り戻せない。本来は、恥をかき、恥に悩むのが人間なのである。効率を考えるより無駄な恥を大切にしよう。恥は人生においてもっとも必要なものである。
(P.12より)
太子様に言いたいこと全部言われちゃったな。恥ずかしいもの、無駄なものは、人生に潤いを与え、人間の幅を作ってくれる。ご主人の行動は、息子さんにもそんなに悪い影響を与えていないと、ぼくは思うよ。
うちの娘はもう高校生なので、クリスマスではしゃぐ歳ではなくなった(逆に「彼氏と一緒に過ごす」とか言い出したらどうしよう……という心配はある)。相談者さんのお宅では、まだ家族みんなでクリスマスを過ごす楽しみがあるんだから、いまは全力で楽しんだらいい。
世界一周並みの
家族愛の持ち主である
サンタといえば、幼稚園のときの思い出がある。ぼくが通っていたのは都内の仏教系の幼稚園で、お寺の敷地内に建っていた。園長先生はその寺の住職でもあった。で、幼稚園だから12月には当然、クリスマス会がある。
お遊戯ホールに集められる子供たち。みんなで『きよしこの夜』かなんかを歌っている。すると、一人の先生がマイクで叫ぶ。「あっ! よい子のみんなのために、サンタさんが来てくれましたよ!」と。そこへ登場する、真っ赤な服を着て、白いヒゲの生えたサンタクロース。背負ったでっかい袋には、子供たちへのプレゼントが詰まってる。
わーっと大変な盛り上がりを見せるわけだが、でも、みんな実は気づいていた。プレゼントを配るサンタさんが園長先生であることを。園長先生(仏に仕える身)もいろいろ大変だよなあと、子供心に思ったっけ。
だから大丈夫。おたくの息子さんも、家に来るサンタクロースがパパだってこと、とっくに気がついてる。そういうもんだ。大人が思っているよりも、子供はよっぽどしっかり世界を把握しているから。息子さんの自立を心配しているようだけど、まあ大丈夫じゃないですかね。
『マーメイド三世 単独無寄港世界一周』
堀江謙一
(1974年/朝日新聞社)
最後に、一人でヨットに乗って世界一周をした堀江謙一さんの日記を引用しておきます。
12月24日(月)晴 南西六 南緯四六度三三分 西経五四度二四分
昨夜の南西の風が今朝までには南に振るだろうと思っていたが、昼ごろまで風位は変わらず。しかし天気のほうは、昨日と打って変わって快晴だ。
午後四時、風が西に振ったのでタッキング(方向転換)して、スターボード・タックで切り上がるが、南西のときの波が残っているのでピッチングが激しい。
きょうはクリスマスイブだが、いっこうに実感が湧かない。
12月25日(火)晴 西南西五 南緯四七度二八分 西経五五度二六分
午後から風が西に振り、夕方には北西となってシメシメである。どうもこのところ、風の方向ばかりが気になる。ホーン岬が近いことも原因だろう。
きょうはクリスマスだが、われわれの結婚記念日でもある。昨年の今夜は夜景がすばらしいホテル・プラザの最上階のレストランだった。来年はどうしようか。でも現在ぼくは精神的に充実している。オイルサーディンを肴に、ウイスキーで乾杯。
(P.125〜126より)
人間、自立しすぎると冒険家になっちゃったりする。それで奥さんを置いて自分だけ世界一周に出かけ、一人勝手にロマンチックに浸ったりする。残された奥さんの気持ちや如何に…。それに比べれば、家族と一緒のクリスマスを全力で盛り上げてくれる旦那さんは、世界一周並みの価値があるのではないだろうか。
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