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    2012〜15年掲載

4月のお悩み

    4月1日はエイプリルフールで「ウソをついてもいい日」でしたが、かわいいウソやユニークなウソは"心の清涼剤"でもあると思っています。とはいえ親である以上、子どもには「ウソつきは泥棒の始まりだから、ついてはいけないよ」などと諭していますが、が、が、です!  政治家やお役人、企業の社長サンたち、み〜んなウソつきばかりじゃないですか! これじゃあ示しがつきませんよ。ウソが全部いけないわけではないと思いますが、古書でウソにまつわる教えを説いた本はありませんか?

(生まれてこのかたウソをついたことがない大ウソ人生の主婦/36歳)

 


『世界はこうしてだまされた《さらばUFO神話》』
 高倉克祐

(1994年/悠飛社)

「月の裏側念写」の真偽に見る、
ウソをつく人・暴く人

  そうねえ、ウソというものには、人に迷惑をかける許されないウソと、笑って許されるウソとがあるよね

  ぼくは基本的にオカルトというものを一切信用しないんだけど、うちの店「マニタ書房」には「オカルト本」のコーナーがあって、けっこうな在庫量を誇っている。オカルトを信用していないくせに、なんでそんなにオカルト本ばかり集めているかといえば、これが「笑える」からなんだな。つまり、オカルト本は笑えるウソの宝庫である、と。

  オカルトの中でも「宇宙」にまつわるものは、気軽に手が届かない場所だからこそ、たくさんのウソが横行している。「火星の地表に人面の形をした岩があり、それは高度な文明が存在した証である」とか、「アメリカの月面着陸は高度な技術で撮影されたトリック映像で、本当は人類はまだ月に到達していない」とか。

   おもにUFOにまつわるオカルトのウソを集めた『世界はこうしてだまされた』という本がある。この中で、自称超能力者の三田光一が行ったという月の裏側を念写した写真の真偽が検証されている。

  昭和六年(一九三一年)六月二十四日、福来は自宅に乾板を置き、遠隔地から三田に月の裏側を念写させた。すると二枚の乾板に同じ像があらわれたという。(中略)月の裏側は全体には白く、ところどころに黒い不定形の模様がある。月の背後には多数の白い点がある。昭和八年十一月十二日に、三田は再び月の裏側の念写を行なった。すると、二年前とまったく同じ像があらわれたという。背後の白い点の位置まで同じだった。
(P.101より)

  そりゃ、同じ写真を繰り返し使ってるんだからそうなるよね。でも、当時(昭和六年)はソ連もアメリカも宇宙開発に乗り出していないのだから、真実もへったくれもない。なんとなくそういうもんかと、みんな信じてしまったのだろう。

  で、これをこの本ではご丁寧に検証してウソを暴く。

  まず、このような月の裏側の全体像が得られるのは、月の裏側全部に太陽の光が当たっている日、つまり新月の日でなくてはならない。ところが、念写の行なわれた昭和六年六月二十四日と昭和八年十一月十二日はともに新月の日ではなかった。前者は月齢八日、後者は月齢二十四日である(月は約二十九・五日の周期で満ち欠けを繰り返す。月齢0日、または二十九・五日が新月である)。
(P.143〜144より)

  この月齢まで持ち出してくる律儀さがたまらない。いまは月の裏側の写真も手に入るので、本書ではそれとも並べて比較しているが、まあたしかに全然違う。しかし、そこまでしなくたって、ふつう「念写」って言い出した時点で「ウッソ〜?」って思うよ。でも、そんなウソをついてしまう人がぼくは嫌いになれないし、それを暴くことに本気で取り組む人も好きだな〜。

渡米した日本人青年が投獄された!
本当にウソつきだったのは…

  さて、次は「ウソをついたつもりが…」という例を見てみよう。ここに紹介する『アメリカ監獄日記』は、憧れの地であるアメリカへやってきた日本人青年が、身に覚えのない容疑で投獄されてしまうという恐怖の体験を綴ったドキュメンタリーである。

  ある日、青年は恋人の住むアパートを訪ねた。彼女とは日本で知り合い、婚約もしたのだが、自分は仕事の都合で単身渡米することになった。そんな彼を追って、彼女も学生ビザを取得してやって来ていたのだ。
  ところが、彼女のアパートの前に着くと、いきなり警官があらわれ、問答無用で逮捕されてしまった。後に判明したところによると、彼女へのレイプ容疑だという。だが、青年にはまったく身に覚えがなかった。

  これは大変だ! もちろん無実の罪で投獄されたことも一大事なのだが、アメリカの刑務所ではレイプ、幼児虐待、放火、密告といった罪状で捕まった者は"グリーンライト"と呼ばれ、刑務所内ではリンチされても警官は介入しない。ときにはそのまま殺されてしまうこともあるというのだ。

  では、どうしたらいいのか?



『アメリカ監獄日記』
 高平隆久

(2006年/草思社)

  それはホモ、ゲイとして同性愛者だけの施設に収容されることだった。その場合、最低三回、"クラシフィケーション"(分別試験)という難関のホモ認定試験を受けなければならない。合格すれば"K-11"というありがたい認定が与えられる。
(P.60〜61より)

  ジェンダーの問題を自分の都合のいいように利用するのは、ちょっとどうかと思わなくもないが、命がかかっているとなれば、とやかく言ってる場合ではない。彼は、自分がそういう性的嗜好を持つに至った遍歴を即席で作り上げると、必死におネエ言葉の英語とイントネーションを練習した。

  レイプ容疑で捕らえられているのに、自分はゲイだと主張するのは、かなり矛盾があるよね。それでも、なんとか"K-11"の認定をもらえてしまったりして、こういったところは、なんというかアメリカのおおらかさを感じる。

  結局、なんだかんだあって裁判の日がやってくる。そこで弁護士から言われたのは、「うまくウソをついた方が裁判では勝つ」という言葉だった。しかし、彼はウソなどつく必要がなかった。なぜなら、彼がウソをまくしたてるまでもなく、彼女の方から自爆してしまったからだ。

  彼はアメリカに来てからの彼女の生活費を援助していた。それなのに、彼女は警察に「自分で稼いでいる」と言い、「日本レストランで働いている」とも言ってしまう。学生ビザで渡米しているんだから、それはアウトだ。おまけに、「彼に殴られて歯が折れた」という主張も、その日、彼女は居眠り運転で事故を起こして、保険会社から保険金まで受け取っていたことが判明する。

  彼女はアメリカに来て知り合った男に心変わりし、邪魔になった彼をレイプ犯に仕立て上げて排除しようとしたのだ。あわよくば慰謝料もふんだくろうとしたのかもしれない。そう、大ウソつきは彼女の方だったというオチである。

次回もお楽しみに!

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