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    2012〜15年掲載

5月のお悩み

    GW(ゴールデンウィーク。某国営放送は意地でも「春の大型連休」と言い張ってます(笑))で休みすぎると、職場復帰するのがイヤになりませんか? 6月は祝日がないので、なおさら気が重くなってやる気が出ません…。いわゆるこれが「五月病」だと思うのですが、どのように克服すればよいでしょうか?

(精密機器メーカー営業職/31歳・独身男性)

 


『デーヤモンド・ヘッド』
 篠原勝之

(1984年/新潮社)

いい加減は、アバウトでたおやかな直観力。
社会にいい加減さを許してくれる隙間がほしいね

  そうそう、6月は祝日がないんだよねー。GWが明けたら、次は7月17日まで祝日がございません! ぼくもサラリーマン経験があるので、祝日を待ちわびる人の気持ちはよくわかる……と言いたいところだけど、ぼく自身は昔から好きなことしか仕事にしていないので、あんまり仕事を休みたいと思ったことがないんだ。そういう意味では、この相談に答える適任者ではないかもしれないね。

  いま「仕事を休みたいと思ったことがない」と言ったけど、まあそれはちょっと大袈裟な話で、たまには気分が乗らないときもある。そんなとき、ぼくは通勤電車を途中下車して、映画を観たりしてた。あるいは反対方向の電車に飛び乗って、大洗海岸まで行って海鮮丼かなんか食ったりしたこともあるな。会社には電話して有給休暇にしてもらってたけど、サボってるのバレてたかもしれないなー。

  でも、休みたいと思ってる奴をムリヤリ働かせたところで、100%のパフォーマンスはのぞめないと思うんだよね。だったらスパッと休んでもらって、リフレッシュさせたほうがいいんじゃないかな。

   ぼくは、もっと社会がいい加減であればいいのに、と常々思ってる。タモリの有名な発言に「やる気のある奴は去れ!」というのがあるね。これはホント名言だ。過剰にやる気のある奴は、そのうっとおしいパワーが逆に周りの士気を下げることになる。人間はマシーンじゃないんだから、もっとユルくていいよ。

  ぼくの尊敬する人間の一人に篠原勝之さんという方がいる。本人曰くゲージツ家、世間一般には芸術家ということになっているが、とてもいい加減──よい加減の人だ。氏のエッセイ集『デーヤモンド・ヘッド』に、こんな記述が出てくる。

  このよい加減、つまり《いい加減》さは、オレがもっとも大切にしているものである。時どき〈あいつは、いいかげんな奴だから〉と吐き捨てるみたいに言われることもあるのだが、オレはそのたびに《まだ失ってはいないゾ》と誇り高い昂りさえ覚え、やっぱし、と再確認できるのだ。
  この《いい加減》は、本来、人間たちがみんな持ちあわせていたアバウト(about)でたおやかな直観力なのだ。残念なことに、大多数は目まぐるしく忙しい成長の過程で退化させてしまったのだろう。気の毒なことではある。結婚および家庭生活、会社ないし社会生活なぞの諸々の形をした生活は、確固なものを目指すあまりいい加減さを排除する。そうすることにより堅牢にはなっていくが、直観力の楽しさや、たおやか感を失くした生活は、もろく、面白くないものになっていくのだ。

(P.44より)

  休みたければ休んじゃえばいい。というのはクマさんやぼくが自営業だから言えることで、会社に勤めていたらなかなかそういうわけにいかないだろう。だからすぐには解決できることじゃないけれど、社会全体に、そういういい加減さを少しだけ許してくれる隙間があったらいいな。

なくしてからわかる、仕事があることのありがたさ。
「五月病」とか言ってられるのは、幸せなんだ

  …というぼくの無責任な回答を真に受けて、相談者さんが「明日からリフレッシュ休暇とります!」なんて言い出したりすると、上司は「GW明けに何をお前は寝言いってんだ!」って怒るだろう。そうならないために、ちょっと怖い話もしておこう。

  1997年に、10代目「いいとも青年隊」として芸能界デビューした岸田健作という青年がいる。彼は高校時代、モテるために始めたダンスに夢中になり、六本木のクラブで踊っていたところを事務所の人間にスカウトされた。
  はじめのうちこそルックスのよさと、いわゆる"おバカ"なキャラクターがウケて人気者となっていたが、いいとも青年隊のレギュラー仕事が終わると同時に、まったく仕事がなくなった。毎日ただ仕事をこなすのに精一杯で、芸能人として生き残っていくための武器を何も準備していなかったからだ。

  そんな健作くんが自分の人生を振り返った『昨日、ホームレスになった。』という著書には、そのときの心情がこんな言葉で書かれている。



『昨日、ホームレスになった。』
 岸田健作

(2012年/宝島社)

  ようやく実感としてわかった。
  会社も仕事もすべてを手放したときの気持ち。
  実際にその状況に立ってみて襲ってきたことは、思っていた以上の絶望感だった。
  これからどうしていいか、道がまったく見えなくなった。

(P.82より)

  ぼくはこの箇所を読むと背筋が冷たくなる。以前、勤めていた会社を思うところあって辞めたときに、まったく同じ思いをしたからだ。仕事をなくす恐怖は、仕事をしているときにはわからないものなんだね。だから相談者さんには強く言いたい。仕事があるうちが華だぞ、と。「五月病」とか言ってられるのは幸せなことなのよ。

  さて、このあと健作くんは芸能界を辞めてどうしたかというと、書名にもある通り代々木公園でのホームレス生活者になってしまう。元人気漫画家がホームレスになったという例もあるが、元芸能人がホームレスというのもなかなかのものだ。

  で、本書はこのホームレス時代の記述が(お悩み相談とは無関係ながら)すこぶるおもしろい。健作くん、ドレッドヘア時代が長かったので髪を洗わないことに慣れていたとか、元芸能人だとバレずに通行人からお金を恵んでいただくためにしゃくれ顔をする練習をしたとか、いい話がたくさんなので、ぜひ機会あれば手に入れて読んでみてほしい。







次回もお楽しみに!

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