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マニタ書房店主様、毎月この連載を楽しみにしています。うちには御歳(おんとし)81歳になる老母がいます。昔から頑健なのが自慢の母で、9年ほど前にくも膜下出血を起こしたときも、なんの後遺症も残らずに、たった2週間の入院で退院してきました。
そんな鋼鉄の母なのですが、さすがに80歳を過ぎてからは、ちょっと言動があやしくなってきました。物忘れが多くなり、鍋を火にかけたまま出かけてしまうことも度々あります。そのことを注意すると、ふてくされて自分の部屋に閉じこもってしまう…。
これから先、どのように母に対応していったらいいのでしょう。何かいいアドバイスをお願いします。(昼酒大好きフリーライター/55歳・男性)
『紅茶キノコ健康法』
中満須磨子
(1974年/地産出版)
健康長寿を楽しめる体質を
育てることが大事
いつも愛読してくださってありがとう。昼酒が好きなフリーライターの55歳、どこかで聞いたようなプロフィールですね。
お母様、くも膜下出血のときは大変でしたね。幸い、家族がみんないるときに
「頭痛い…」とか言いだしたから、すぐに救急車を呼ぶことができた。もし、一人の
ときに倒れていたら、そのまま発見が遅れてあの世行きだったはず。
ま、それは単に運がよかったということなんだけど、お宅のお母様はとても楽観的な人なので、なんといってもその性格が長寿の秘訣にもなってる気がするよ。お母様、いまから40年くらい前に紅茶キノコが流行ったとき、せっせと作って飲んでたじゃん。当時は「アホか!」と思ったけど、いまにして思えば、あれも無駄ではなかったんだろうな。
いやいや、紅茶キノコに健康への効能があるって言いたいんじゃないよ。医学的根拠のない民間療法は厳しく取り締まられるべきだと思っているけど、命に関わるようなことがない、あくまでも健康法レベルのものなら、まあ、あってもいいんじゃないだろうか。
ブームが巻き起こっていた当時に出版された『紅茶キノコ健康法』の中に、こんなことが書いてある。
紅茶キノコを常用している地域の人たちは、病気になったから飲むということではなく、常日頃これを飲むことによって病気におかされる心配を去り、健康長寿を楽しめる体質を育てることができるという、固い信念を持っているようです。新薬や注射のような特効薬的効果を望むのは無理というものでしょう。
(P.106より)
大事なのは「健康長寿を楽しめる体質を育てる」ことであって、決して特効薬ではないんですよ、とちゃんと明言してる。紅茶キノコ自体もそうだけど、それを解説した本なんてもっとオカルトっぽいものだと思っていたけど、こうしてみると著者は案外もっともなことを言ってるのがわかるね。
うちの、じゃなくて相談者さんのお母様は若い頃から好奇心旺盛な人だったから、こういう変な健康法にはすぐ飛びつくし、ぶら下がり健康器とか中山式快癒器とか、そういうおかしなグッズも買ってしまう。さすがに300万円もする壺を買おうとしたら止めるべきだけど、数千円の散財で「健康長寿を楽しめる体質」を育んでこられたのだから、結果オーライだろう。
主役として真ん中に
置いてあげること
とはいえ、どんな人間でも寄る年波には勝てない。鍋に火をかけたことを忘れて、そのまま外出してしまうのは困ったもんだね。焦げた鍋を見つけては(相談者さんが)いつも怒ってるんだけど、改善されるどころか、その頻度は増えていってるようだ。そして家族と口論になり、ふてくされてしまう、と
焦げた鍋を見た瞬間、ついカーッとなって怒ってしまうのだろうけど、冷静になって考えてみると、本当はお母様本人がいちばんショックを受けているんだよね。だんだん物忘れがひどくなっていく自分に恐怖を感じているはず。そんなところへ息子から追い討ちをかけられたら、そりゃ凹みもするよ。
さすがに火事を出されたたら困るので、火元の不注意だけは怒っても仕方ないけど、それ以外のときはどうしてる? 満遍なく叱り付けていたりはしないだろうか。あるいは、ミスされるのを恐れるあまり「おばあちゃんは何もしなくていいから」なんて言っていないだろうか。
世のババアにちょっぴりの毒とたっぷりの愛を振りまくことで人気の毒蝮三太夫氏が、『元気で長生きするコツさせるコツ』という本を書いている。その中から、心に残ったエピソードを紹介しよう。浅草に近い竜泉の八百屋へ嫁いできたおばあちゃんが、百歳になっても達者で暮らしている秘訣だ。
『元気で長生きするコツさせるコツ』
毒蝮三太夫
(2003年/グラフ社)
ご主人はとっくに亡くなった。ババアは今でも客が来れば「いらっしゃいませ」と店の者と一緒に声をかける。レジで袋づめもする。つい最近までは売上計算もやっていたそうだが、消費税が入って面倒になったのでやめた。
レジを打っていた頃、毎日の現金集計が足りない。調べたら、はんぱの金はまけちゃってた。五百四十円だと「いいのよ、四十円はいいから」なんて五百円しかもらわなかったんだ。
一緒に働いている息子さんも、
「いいのいいの、おばあちゃんが近所の人に世話になっているから。せっかく買いにきてくれたんだから、まけてもいいのよ」って怒らない。
(中略)
まわりには六十五歳の子供の孫も、その嫁もいるが、みんな「おばあちゃん、あれはああやるんでしょ」「ここはこうしたほうがいいかしら、おばあちゃん」って、商売の最中に聞く。何でも聞かれるから、何でも答える。要するに、主役として真ん中に置いてあげているんだ。
(P.18〜19より)
長生きしたから、もうお疲れだろうからと、周囲が気を使って何もさせないようにするのは、実は本人のためにはならない。むしろ、身体が動くかぎりはきちんと現役あつかいしてあげる。それがボケない秘訣なのだという。
相談者さんのお母様は、いまでも洋裁の仕事を請け負っているし、踊りのお師匠さんもやっている。家事全般もこなすし、庭で家庭菜園までやっている。だから、家族のみんなも活躍の場を奪ってはいないと思い込んでいただろう。でも、それらはおばあちゃんが自ら選んでやっていることであって、家族の主役として「真ん中に置いてあげている」ことにはならないのだ。
これからは、そうしたことを心がけて母と、いや、お母様と暮らせばいいのではないでしょうか─。
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