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とみさわさんのお店がある神保町では、「神田古本まつり」が行われていましたが、私も古本好きなので足を運びました。ものすごい人出で賑わっているのですが、正直、ゆっくり本を吟味して買うにはしんどいかなと…。
でも、特価品がいっぱいあるので、ついつい衝動買い(笑)。実際に気に入った古本を買っちゃえばいいだけの話だけど、「古本の見分け方・買い方」なんていう指南書は、古本にありますか?
(あたしもカビ臭いOL/36歳)
『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
小山力也
(2013年/原書房)
「外房、大東崎」まで来て、
こうなったらもはや絶景よりも古本
おっしゃる通り、神田古本まつりの期間中は靖国通りの歩道にワゴンが立ち並び、それ目当てのお客さんで連日たいへんな賑わいを見せていた。うち(マニタ書房)はメインストリートからはずれているうえに、ビルの4階だから古本まつりの恩恵を受けることはほとんどない。それでも、うっかり迷い込んで来るお客さんが普段よりは多かった。
古本の見分け方・買い方を指南する本は、正直言ってたくさんある。古本が好きな人は、文章を書くことが好きだし、古本が好きな人は古本について書かれた本を読むのが好きだ。だから、必然的に古本にまつわるエッセイ集は山ほど出版される。
とりあえず古本エッセイ界を代表する書き手を挙げていくと、まずはなんといっても紀田順一郎氏だろう。評論家、翻訳家、小説家と様々な顔をもつが、古書に関するエッセイ(紀田先生の場合は“随筆”と呼ぶほうがしっくりくる)もたくさん書いており、なかでも必読は『古書街を歩く』(福武文庫)。
それから、古本ライターとしていちばんの人気を誇るのが岡崎武志氏。その著作の9割以上が古本に関するエッセイで、古本が好きな人だったら目隠しをして適当に選んでも全部おもしろいから安心だ。先ごろ文庫化された『蔵書の苦しみ』(光文社知恵の森文庫)は、増殖する本の物量に喘ぐ古本マニアの苦しみを描きながらも、どこか楽しそうに見えてしまうという名著だった。
岡崎氏のあとを猛烈な勢いで追い上げているのが、通所“古ツアさん”こと小山力也氏(同名の声優さんとは別人です)。毎日のように日本全国の古本屋を訪ねては、その店内の様子を記憶とメモだけを頼りにブログにアップしているすごい人で、その成果は『古本屋ツアー・イン・ジャパン』(原書房)シリーズとして、すでに5冊も刊行されている。
その『古本屋ツアー・イン・ジャパン』から、千葉県は外房の大東崎にある某古書店へ行ったときの記事を見てみよう。雨ざらしの駅ホームに降り立ち、約1キロの道のりを延々と歩いたあとの描写。
やがて海が見え、崖下には防波堤に激しく挑み続ける白波の姿。「おぉ〜」と大自然の力に感動し、ちょっと怯える。道が少し海から離れた所で、左手に自然なままの駐車場と〈空と海しか見えない崖の上の小さなカフェ〉と書かれた立看板と、店名ロゴの入った板塀が現れた。…営業中だ。無事にたどり着けてホッとする。それにしても、またなんでこんな所で古本を売っているんだ…。
(中略)
靴を脱いで上がるのだが、やや、奥の窓の向こうには、一直線の水平線が見えている。太平洋だ! 絶景だ! そして絶景の手前に、古道具とともにある古本を発見! こうなったらもはや絶景よりも古本である。
(P.270より)
誰それの何とかいう初版本を破格で見つけて儲けたぜ〜、みたいな古本エッセイもいいだろう。でも、古ツアさんのこうしたエッセイのほうが、何倍も古本との出会いの楽しさを教えてくれているような気がするのだ。
市場で腐りかけている、
役目が終わったジャンルを見つけ出す遊び
ここでもう少し、具体的にどんな本を買ったらいいか、という話もしておこう。もちろん「あなたが読みたい本」を買うべきなのは当たり前のことだ。ただ、それではなんのアドバイスにもならないので、それはちょっと横に置いておく。で、かわりに「どんな本を買ったら楽しいか?」という話をしてみたい。
いま、古本市場では70〜80年代に刊行された暴走族に関する本の価格が高騰している。決して発行部数が少なかったわけではないはずなのに、なぜ、そんなことになっているのだろう? そう、ああいう本は「書物を粗末にする人たち」が対象読者だったから、キレイな状態のものがほとんど残っていないのだ。数が少ないとわかれば、途端に値が上がる。それが古本の原則だ。
ゲームの攻略本は、ゲームのエンディングを見たら役目が終わる。そもそも、ハウツー本の類は古本市場でとくに人気がないジャンルだ。それが、人気のピークを過ぎたゲームの攻略本なら、なおさらだ。だから、簡単に捨てられる運命にある。
ところが、ファミコンがスーパーファミコンになり、プレイステーションが登場し、さらに新しいゲーム機が登場し……というようにハードウェアの世代交代が進むなかで、ファミコンに代表される8ビットゲームのテイストを懐かしむ風潮が生まれてきた。そして「いまファミコン関連グッズを集めたらおもしろいんじゃね?」というコレクターが出てきたのである。つまり、ファミコンはいまコレクションするのに“ちょうどいい”のだ。
暴走族の本と、ファミコンの攻略本。ぼくはここで、そうした本を安く見つけて転売して儲けようぜ、と言いたいのではない。いま、そのあたりの本を安く見つけるのは、プロでも難しい。うちでも暴走族の本なんかめったに仕入れられない。
『セカンドライフのガイドブック』
(2007〜2008年の発行)
では、何が言いたいのかというと、そうした、のちに値上がりするかもしれないけれど、いまはクズ本として市場で腐りかけているジャンルを見つけ出すのは楽しいぞ〜、ということだ。
暴走族の本だって、ファミコンの攻略本だって、100円均一のワゴンに無造作に放り込まれている時代があったのだ。でも、そのときは誰も見向きもしなかった。もしもタイムマシンがあったら、あのときに戻って、そんな本をガシガシ買い集めたい! そんな夢を見る古本マニアは多いはずだ。ならば、いま“その状態”にあるテーマを見つければ、誰もライバルがいないから安値で集め放題のはず。それを試してみない手はないよ。
我がマニタ書房では、あるジャンルの本を積極的に集めている。いま古書店の棚にあっても誰も買わない本。タダでもいらないよと言われてしまう本。うっかりしてると捨てられてしまう本。
それは「セカンドライフのガイドブック」。
これ、たしかにいまはゴミだ。紙屑だ。でも、これから5年、いや10年すると、案外化けるんじゃないかと思っている。時間の経過によって人々の記憶が風化してゆくとともに、「セカンドライフのガイドブック」はマヌケな文化遺産の貴重な記録として、いい感じに発酵するだろう。
古本道としては非常にレベルの高い遊びをしていると、わたくし自負しているのだが、いかがだろうか。
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