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4月はいきなりエイプリルフールで幕明けですが、いまや政治家を筆頭にして官僚も大企業も◯つきばっかり!ウチでもダンナが少々怪しい素振りだし(浮気!?)…。古今東西でウソにまつわる変な本・アブナイ本はないですか?
(地方公務員の窓口担当女性。ちなみに戸籍課です/29歳)
『実録 新・悪の錬金術』
杉山治夫
(1992年/青年書館)
“裏金融界史上最悪の男”が
送ってくれた恐怖のハガキ
エイプリルフールってなんだろうね。ぼくには理解できないものの筆頭株だ。ぼくは人が騙されて困惑している様子を見てもおもしろいとは思えないので、たとえエイプリルフールであってもウソはつきたくない。ましてや自分がウソをつかれるのなんてまっぴら御免だ。
以前は、4月1日だけテレビを見ないようしていた。そうすればエイプリルフールのウソ企画に直面することはほとんどない。いまはネットがあるのでちょっと厄介だ。仕事で調べ物とかするのに必要なので見ないわけにいかない。それなのに、エイプリルフールのために各種企業はせっせとウソ記事を作っているし、SNSでもウソがバンバン流れてくる。
明らかにウソだとわかるジョーク企画ならいいけど、中には、ぼくほど猜疑心の強い人間でもうっかり騙されてしまうほど巧妙なものがあって困る。少々不便ではあるけれど、いまは4月1日だけはネットもできるだけ見ないようにしている。
さて、ウソにまつわる本、というわけではないけれど、これまで見聞きした中でもっとも恐ろしいウソが書かれていたのが『実録 新・悪の錬金術』という本だ。
これは杉山治夫というサラ金王の自叙伝で、かつてはテレビにも出演して、札束をばらまくパフォーマンスで注目を集めたこともある人物だ。彼は困っている人にほいほい金を貸し、返済ができなければ臓器を売れと迫る。人の命などなんとも思っていない。実際、自分のことを“裏金融界史上最強最悪の男”と呼んでいた。
金が返せずに夜逃げした客を探すために、杉山は必殺のウソテクを使う。客が逃げ出した空き家に1枚のハガキを放り込んでおくのだ。それは日本運命学協会という不思議な団体からのもので、裏面には「おめでとうございます。現金1,620円が当たりました」とある。おまけにダブルプレゼントで「100万円が当たる権利も獲得した」とも。
夜逃げした家に舞い戻る逃亡者などいるのだろうか? と疑問に思うが、そうでもないらしい。
逃亡者の心理は皆似ていて、自分が捨ててきた家がどうしても気になり、夜陰にまぎれてある日ひょこっとなつかしいわが家に足を踏み入れることがある。ドアに差し込まれた手紙の数々、それはガス料金未納やら電気料金支払いの督促の通知やら水道給水停止の通知やらであるが、そのなかにひっそりと見慣れない手紙がまぎれ込んでいる。
(P.19より)
ぼくだって、もし同じような境遇に置かれてしまったら、信じてしまうかもしれない。100万円をくれると言ってるのではない。それはあくまでも抽選に参加する権利。もらえるのはたったの1,620円。その半端な金額がリアルではないか。
藁をもすがる気持ちになっている逃亡者は、返信用ハガキにいま住んでいる住所を書いてしまう。そして数日後、日本運命学協会の人間が当選金を持ってやって来るのだが、その背後にいるのは…杉山治夫だ。これは怖い。
名探偵ホームズの
生みの親さえも騙したウソ
ウソといえば、心霊写真というものが1970年代の半ばから1980年代にかけてずいぶん流行った。ズバリ「心霊写真集」と銘打った本もたくさん刊行された。
霊魂がフィルムに焼き付けられるという現象に疑問を持たないような人に、「あなたの背後に写っているのは成仏できなかったご先祖様の霊ですね。これをお祓いするためには○○万円必要で……」なんて持ちかけるのはタチの悪い商売だが、心霊写真そのものを半信半疑で怖がったり、おもしろがったりするのは、まあ、よいのではないか。
心霊写真とはちょっと違うが、1916年にイギリスのブラッドフォード近くで撮影された妖精の写真の真贋を巡って、世界中で物議を醸したことがある。「妖精写真」で画像検索すると真っ先に出てくるやつがそれだ。
実際に見てみれば、妖精のイラストを描いた紙を切り抜いて少女の周りに並べただけ、というのは明らかなのだが、なぜかそれを信じてしまった人がたくさんいた。まだ写真機が市場に流通するようになって間もない時期だったという事情がそうさせたのかもしれない。
…と言いたいところだが、「コティングリー妖精事件」と呼ばれるこの事件を追った同名の本を読んでみると、ちょっと様子は変わってくる。
妖精の写真を撮ったとされているのは、エルシーとフランシスという二人の少女だ。年長のエルシーが、父から借りたカメラで友人のフランシスを撮影した。家に帰って父アーサーに現像してもらうと、ガラスの感光板にはフランシスとその周りで飛び跳ねる妖精たちが写っていた。エルシーは「妖精が写っているわ!」と興奮して叫ぶが、父の態度はこうだ。
アーサーの下した結論は明快だった。「お前たち、何かたくらんだな」。彼はきっぱりと裁断した。
(中略)
アーサーは依然として冗談あつかいして相手にしなかった。恐らく切抜きの妖精か何かであろうと思っていたのだ。エルシーは美術が得意で、十三歳半で学校を離れ、ブラッドフォードの近くの美術学校に通ったほどで、何年も前から妖精の絵を描いていた。
(P.45〜46より)
『コティングリー妖精事件』
ジョー・クーパー、井村君江・訳
(1999年/朝日新聞社)
夢見る少女たちが「妖精はいる」と信じたい気持ちはわかる。誰かを騙そうというつもりなどなかったのだろう。でも、そんなウソ写真が長いこと本物として世間に流布してしまったのには、意外な人物の影響があった。アーサー・コナン・ドイルである。
ドイルは1920年の12月『ストランド』誌にこの妖精写真を掲載し、こんなことを書いている。
小妖精が上げた二本の手を高倍率のレンズで見たところ、人間のものには見えなかったし、右のほうで跳ねまわっているものの左足も同様だった。手の縁には毛が生えているように見え、指も一つのしっかりとした固まりになっているようだ…
(P.85より)
シャーロック・ホームズの生みの親が、完全に子供のウソを信じちゃってる…。
ウソというのは不思議なものだ。「ついて良いウソと悪いウソがある」という言葉もある。どうせウソをつくなら、ゲラゲラと笑い飛ばせるものや、誰かを幸せにしたりするものであってほしいものだね。
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