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会社の人事異動で5月から神保町勤務になるサボリーマン5年生です。神保町といえばカレーが有名ですが、とみさわさんはどの店がお好きですか? かつての同僚からは「お前、せっかくカレーのメッカへ異動するんだから、老舗のカレーを食いまくれよ!」と檄が飛びます。さて、とみさわさん、カレーにまつわる面白本ってありますか?
(バーモントカレーしか食べられない会社員/28歳)
『カレーの愛し方、殺し方』
手条萌
(2016年/彩流社)
人は誰しも、あなただけの
運命のカレーというものがある
おっしゃる通り、神保町にはカレー屋さんがたくさんある。スマトラカレーの「共栄堂」、元祖欧風カレーの「ボンディ」、じゃがいもサービスの「エチオピア」、カツカレー人気の「キッチン南海」、ひき肉混じりのルーが美味な「まんてん」。どこもおいしくて昼時は行列ができている。
ただ、ぼくは胃腸が弱いので、これらのトロみのあるカレーを食べるとほぼ100パーセント胸焼けして、しばらく仕事が手につかなくなる。脂のせいかもしれないが、理由はよくわかんない。
そんなぼくがいつも行ってるのは、マニタ書房から徒歩3分のところにある「カーマ」。ここのチキンカレーは、ルーがシャバシャバで、まったく胸焼けしない。それとスープカレーの「鴻(オオドリー)」もよく行く。ようするにカレー茶漬けが好きなんだね。
神保町はカレーの名店も多いが、他にラーメンと焼き鳥(あるいは、もつ焼き)屋も多い。これはなんでかなあ〜と考えたことがあるんだけど、ハッと気がついた。神保町は古本の街。訪ねて来る人は読書家が多い。古本を買った帰りに食事をしながらも、つい本を手に取る……。そう、カレーもラーメンも焼き鳥も、本を読みながら“片手で食べられる”のだ!
えー、眉唾っぽい話はこのくらいにして、本題へ。
まず最初に紹介するのは、手条萌さんの『カレーの愛し方、殺し方』という本。著者曰く「底なしカレー沼に落ちてしまった、とあるゆとり世代が、カレーについて、そして生意気にも愛について、時に過激に、時に優しく、それなりに一生懸命に語った本」だそうだ。
何かに没入することをよく「沼」、もしくは「沼に落ちる」という。ぼくも炒飯作りにハマってプロ用の中華鍋を買ったくらいだけど、カレーはいかにも“沼”って感じがするね。
本書では、カレー沼に首まで浸かった著者が、カレーの名店レビュー、レトルトカレーの味比べ、自作カレーの紹介、おまけに自身がツイッターでつぶやいたカレーに関するひと言集と、縦横無尽に語っている。
あとがきにある、この言葉を引用しておこう。
非常にありがたいことに、取材していただくことも多くあります。 相手が求めている結論を推測して、ベストな回答をするというのはなかなか難しい作業だなあと知りました。 そして「美味しいお店ランキングを教えてほしい」という問いには、なかなか答えられない! なぜなら、人は誰しも、あなただけの運命のカレーというのがあるから。
(P.220より)
そうなんだよね。自分がおいしいと思ったものを他人もおいしいと思うとは限らない。他人から「これおいしいよ」と進められても、それをおいしいと思うかどうかは、自分の舌が決める。カレーに限らず、食べ物をすすめるっていうのは難しいもんだよ。
ポテトとカリフラワーを煮込んだ
アルゴビ・カレー!
マニタ書房には「極端配偶者」という棚がある。ようするに国際結婚した人が書いた本を集めたコーナーなのだが、そのラインナップから『ラージプートの花嫁』という本を紹介しよう。これは、友人のバースデーパーティーで知り合ったパキスタン人のところへ嫁いだ日本人女性が書いた本だ。
結婚当初は、夫であるハッサンの故郷パキスタンで暮らしていた二人だが、出産を機にいったん日本へ帰ってくる。やがてまたパキスタンに戻るが、紆余曲折あって日本に定住し、二人でパキスタンカレーの店「ラージプート」を開業する。
インド・パキスタン周辺のカレーといっても、味は地域によって様々だ。二人の店で出すのはパキスタンカレーの中でも“パンジャビ地方のもの”だそうだ。
著者は「パンジャビの味を売り物にしているレストランはおそらく日本では、この店一件(ママ)だけ」と言う。パンジャビの味というのが具体的にどういうものなのかは、残念ながらこの本の中ではあまり詳述されていなかった。
『ラージプートの花嫁』
宮崎弘子
(1993年/東京三世社)
ならば食べに行ってみるかと思い、店名で検索してみたのだが、どうやら「ラージプート」はすでに閉店しているようだった。この本が書かれたあとに、閉店せざるを得ない何らかの事情ができたのだろう。そのかわりと言ってはなんだが、埼玉県草加市と越谷市に「パンジャビ」という店があるのを見つけた。ここはそのうち行ってみようと思う。
さて、話を二人が付き合い始めた頃に巻き戻す。パーティーで出会った二人は、お互いカレーが大好きということで、デートはいつもカレー屋さんの食べ歩きだ。ある店でのカレーの描写が非常においしそうだったので、最後にその場面を引用しておく。
ナプラタン・カレーは「宝石のカレー」という意味だそうだ。七種類の野菜が入っていて、カラフルなのでそう呼ばれており、野菜好きの人にはぴったりだ。今でも肉はあまり食べないのだが、当時の私は野菜しか食べなかった。メニューにナプラタン・カレーを見付けた私の目の色はきっと変わっていたに違いない。
ハッサンが注文したコフタ・カレーは、ラムのミンチが入ったカレー。彼はこれが好物なそうだ。
それから、アルゴビ・カレー。これはポテトとカリフラワーを煮込んだもので、辛めにして食べるのをお勧めしたい。
(P.14より)
アルゴビってのが、なんだか激しくうまそうなのだった(よだれタラ〜)。
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