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    2012〜15年掲載

6月のお悩み

  とみさわさんは趣味と仕事でいろんな古本を集めていると思うのですが、私も実は古本マニアでして、ヒマさえあれば古本屋通いをする日々です。そんな私が集めているのは、変わった装丁の本。デザインがちょっと変だったり、造本に凝ったものがあると、内容も見ずに買ってしまいます。古書店主として無数の本を見てきたとみさわさんオススメの、「これは!」という変な造りの本はありませんか?

(ナカよりソトを愛するホッピー女子/28歳)

 


『お父さんの石けん箱』
 田岡由伎

(1991年/KKベストセラーズ)

天才アンディ・ウォーホルに
あの蛭子能収が憑依した!

  好きな作家の本、初版にこだわる、特定のシリーズを全巻揃える、お気に入りの挿絵画家の本などなど、古本ってのはいろんな集め方があるが、凝った装丁の本ばかり集めるっていうのもいいもんだね。

  ぼくからオススメを紹介する前に、ホッピー女子さんがこれまでに集めた本を見せて欲しくなってしまう。ま、そうもいかないのでオススメを紹介するけど、ぼくの手持ちの中から「これは!」という本を挙げるなら、まずはこの1冊。『お父さんの石けん箱』だ。

  著者は田岡由伎さん。映画プロデュース業など多方面で活躍なさっている方で、彼女が亡き父の思い出を書き記した伝記である。その父の名は……田岡一雄。そう、山口組三代目組長として、日本中の極道を震え上がらせた男である。

  その本のブックカバーがこれ(写真参照)。

  わかりますかね? 本体の表紙にはモノクロで組長の顔写真が印刷してある。それを包むカバーは透明なセルロイドで、そこには顔のパーツが原色で印刷されている。つまり、カバーをかけると、なんというかアンディ・ウォーホルに蛭子能収が憑依したような感じの本になってしまうのだ。

  この装丁を考案したデザイナー、大阪湾に沈んでいたりしないのだろうか…?

  ちなみに、この本自体は非常に読み応えのあるいい本です。娘から見ればとても優しいごく普通のお父さんだけど、その一方で組員1万5千人(当時)を率いる日本最大の暴力団の親分でもある。そのギャップがおかしい。父娘ふたりで映画を見に行ったときのこと。

  『三代目襲名』を観に行ったときは、お父さんはマスクとサングラスをしてコートの衿を立てて、いかにもバツ悪そうに入っていく。ぼくは、いてはいけないんだ、というような感じ。若い衆さんを連れているから余計に目立つ。若い衆さんはちょっと離れた後ろの席に座って、私とお父さんが並んで席に着いた。
  「お父さん、マスクとサングラスしてると、余計に目立つよ」
  「そんなに目立つか? そうかなぁ、なら、取ろうか」
  そう言った時に、隣の席のおじいさんの読んでいる本が、パッと目に入った。そこにはお父さんの写真がバッチリ出ている。

(P.99より)

  2003年には文庫版も出ている。カバーは普通の家族写真になっちゃったけど、読むだけでも絶対に楽しめるので、機会があったらゼヒ!

ハイパーリンク構造を紙の本で再現。
アナクロ手法だけど、インターネット的!

  もう1冊は、ブックデザインというものを超越したすごい本を紹介しよう。まだインターネットがなかった時代に、ネットワークの利点を紙の本で実現しようと試みた本がある。それが『テレビゲーム 電視遊戯大全』だ。

  初期インターネットといえば、テキスト中の単語(タグ)をクリックすると関連する別ページへ飛ぶ、いわゆるハイパーリンクが特徴だった。その後、技術が進化するにつれて、テキストが画像になり、画像が動画になったりはしているが、基本的な構造は変わりない。

  古今東西のコンピュータゲームと、それに関連するメーカーやクリエイターを網羅した『テレビゲーム 電視遊戯大全』では、そうしたハイパーリンク構造を紙の本で再現しているのだ。

  いったい、どうやっているのか?

  この本では、ほぼすべてのページを上下3段に分割し、上段では「テレビゲームの歴史」を、中断では「ゲームのクリエイター」を、下段では「代表的な作品」を紹介している。そうして、文章中では様々な単語に記号(歴史は●、クリエイターは■、作品は★)と番号が振られている。



『テレビゲーム 電視遊戯大全』
 テレビゲーム・ミュージアム・プロジェクト

(1988年/UPU)

  つまり、たとえばあるクリエイターの項目を読んでいて、その人物の代表作振られている記号と番号のページをめくれば、別々のページを同時に参照できるというわけだ。もんの凄いアナクロな手法だけれど、やっていることはとてもインターネット的!

  この本の仕組みを構想し、編集の総監督を務めたのは石原恒和。ゲーム好きなら、この名前を見てすぐにピンとくるだろう。そう、現在は株式会社ポケモンの代表取締役で、『ポケットモンスター』関連ビジネスのトップにいる石原恒和氏だ。

  日本で初めてインターネットサービスプロバイダ(ISP)がサービスを開始したのは1992年。その4年前に、いかにもインターネットを思わせる本があったというのが驚きだが、何よりも、1988年の時点までのテレビゲームの全貌を知るための資料としても、これは一級品だ。

  問題は、発行された部数が少ないのと、元々の定価が高額(3,500円)だったため、古本市場に出てきても大変なプレミアがついてしまうということだろう。一時は30,000〜40,000円ほどしていたが、今日、たまたま中野の「まんだらけ」に行ったら、17,000円に下がってました(笑)。










次回もお楽しみに!

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