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8月はお盆ということで、私も家族を伴って故郷に帰省して墓参りをしてきます。そこで、「お墓参り」に関することや、全国で先祖の霊を慰める奇祭や風習などが載っている本があったら紹介してください。なるべく変わったものがいいです(笑)。“霊的なもの”にちょっと関心があるので。
(たまに金縛りに遭うサラリーマン/39歳)
『おもしろお墓101話 パートII』
青空うれし
(1998年/石文社)
チープなダジャレが炸裂しまくる
青空うれしの有名人お墓ガイドが秀逸だ!
お墓参りかぁ…。ぼくは妻の墓参りさえロクにしない人間なので、どうもピンとこない。墓参りに関する本なんて仕入れたことあったかな、とマニタ書房の店内を見渡してみると、一冊だけ、よさそうな本があった。漫才師・青空うれしの『おもしろお墓101話 パートII』である。
この本は、有名人のお墓めぐりが趣味だという青空うれし氏によるお墓ガイドで、日本国内では69人、フランスで15人、アメリカは11人もの有名人のお墓が紹介されている。登場するのは、野口英世やオニヅカ中佐といった偉人から、夏目漱石やヴィクトル・ユゴーのような文豪、さらに美空ひばりやジェーン・マンスフィールドといったスターまで幅広い。
ここで本のタイトルをもう一度よく見てほしい。「パートII」って書いてありますね。ということは「パートI」もあるわけだ。うれし氏は、いったいどれだけ墓場めぐりをしてるのか。しかも、このシリーズは「パートII」で終わったわけではなくて、恐ろしいことに「パートIII」が出版されたことも確認している。
さて、とりあえず手元にある「パートII」の中から、いくつか紹介してみよう。
まずは高峰三枝子のお墓。彼女は昭和11年に松竹映画で女優デビューするや、その気品のある美しさで一躍人気スターの座を獲得する。昭和51年『犬神家の一族』(市川崑監督作)での犬神松子役が印象深いが、その後に出演した「フルムーン旅行」のテレビCMで見せた、半チチ入浴姿を記憶している人も多いだろう。
で、肝心のうれし氏による紹介文を読んでみると…。
ケーシーは以前は大空はるか・かなたの芸名で漫才をしていたが、コンビ解消後にあのベンケーシー(TV)から名前を頂戴して今の芸名とした。従って、医術経験ゼロ。それなのに或る時、中高年の女性から心臓の具合が良くない、動悸が激しくなると相談されて、それなら桜の葉を煎じて飲むといいと云った。すると一カ月程してその女性が菓子折を持って訪れ「センセ、私お蔭様で良くなりました」。驚いたのはケーシー本人。くだんの女性の帰った後、側のマネージャーがサクラの葉が効くんですかね?に、「バカ、ありゃシャレよ。ドウキのサクラってな」。
(P.82より)
というように、本文の半分近くも高峰三枝子と血縁でもなんでもないケーシー高峰の話をしていて最高なのだった。
フランス編からも一人、エミール・ゾラのお墓をご紹介しよう。ゾラはフランス自然主義文学の作家であり、美術評論家でもあったが、ドレフュス事件ではスパイ容疑をかけられたユダヤ系大尉のために戦うという正義の人の側面もある。
そんなゾラに対するうれし氏の筆致はこうである。
一九〇二年九月二九日、正妻と就寝中にストーブの不完全燃焼が原因で突然の死を迎えた。一〇月五日、モンマルトルの墓地に十万人もの人々が彼を見送りに来た。世のため人のため、間違いを許さず、一人敢然と立ち向かったゾラ。正義の味方ゾラ。そういえば映画でおなじみの快傑ゾロも正義の味方。ヨッ!! 快傑ゾラ!! と叫んだら、墓の彼の像がニヤッと笑って「ボクはスパイ事件も絵画界の古いカラーもすべて打ちやぶって解決したのです。だから解決ゾラです」。ちなみにゾラの横に立ってる人はアオゾラです。
(P.167より)
やべえ、「パートI」と「パートIII」も手に入れなきゃ!
「魂を自然に返す」…という幻想を
豪快に打ち砕くチベットの凄惨な(!?)鳥葬
「先祖の霊を慰める奇祭や風習」で、もっともストレンジなものといえば、なんといっても「鳥葬」ではないだろうか。亡くなったご遺体を山に放置して、ハゲワシなどに喰わせるというアレである。
いまも鳥葬を行なっている地域として有名なのはチベットだ。ただし、チベット自治区は2006年に鳥葬を撮影、報道することを禁ずる条例を発布したので、実際にはどのようなことをしているのかは案外と知られていない。そこで、1960年に刊行されて鳥葬の実態を初めて世間に知らしめることとなった名著『秘境ヒマラヤ探検記 鳥葬の国』を紹介したい。
1958年、民族地理学を専攻する川喜田博士は、研究室の学生らと探検隊を結成してネパールに向かう。鳥葬の実態を調査するためだ。
とはいえ、チベット人の葬式は鳥葬だけではない。火葬、土葬、水葬、鳥葬の4つある。むしろ、鳥葬が行なわれる機会は非常に少ないという。現地に滞在し、人死が出た! といっては色めき立つ調査隊だが、そっと後をつけてみても単なる土葬だったりして、思うようにその実態を観測することができない。
何ヶ月も待ち(人が死ぬのを待つという、民族学のフィールドワークも罪なものだ)、ようやく葬儀があっても鳥葬でなかったり、葬儀への同行を拒否されたり、あるいは撮影を拒否されたりする。それでも辛抱強く交渉にあたって、ようやくチャンスがやって来た。その瞬間の描写は次のようなものだ。
『秘境ヒマラヤ探検記 鳥葬の国』
川喜田二郎
(1960年/光文社)
かついできた包み紙が解かれた。すでに切断してあるかと思われた死体は、まだまったく無きずの全裸でころがり出た。荒れ果てた岩砂地のくぼみに、その死体が横たえられた。なまぐさいにおいが、風とともに臭ってきた。それから一人の僧が、大石を台にして、刀をとぎはじめた。
(P.207より)
そう、鳥葬というと干からびた遺体を山のてっぺんに置き、あとは鳥が突っつくに任せるようなイメージがあるが、実際には、鳥さんが食べやすいように解体しなければならないのだ。
このあとに続く解体シーンは、あまりにも描写が凄惨なので引用するのは遠慮しておくが、「鳥葬って私たちが想像していたよりムゴたらしいものなのね…」と驚かれた方も多いのではないだろうか。
しかし、現実はこのあと、さらに追い討ちをかける。
ついでユングドゥンが一かかえもある岩をかかえ上げたとき、大森君は息をのんでシャッターを切りはじめた。と、ユングドゥンは、その岩を、婆さんの頭めがけて、ドッシンと落とした。頭はグラリと向きを変えて、彼女の顔は大森君の方を向いた。この光景をファインダー越しに眺めた大森君は、一瞬、自分の頭をグワーンとなぐられたようにめまいを感じたが、ようやく持ちこたえた。ユングドゥンは彼女の頭を少しつついてみたが、頭蓋骨はまだじゅうぶん砕けていなかった。彼はもう一度岩をかかえあげて、頭を目がけて投げ落とした。今度は完全に砕けたらしい。
(P.208より)
食べやすくするという配慮が、とても徹底しているのだった。どうだろう、霊的なことに言及している本ではないけれど、ご満足いただけただろうか。
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