-
店主自ら日本全国の古本屋さんをまわり、ご自分の気に入った本だけを仕入れて並べているというマニタ書房。そんな楽しそうな古本屋さんがあるなら、ぜひ一度は行ってみなければ! と思っていたのですが、なんと、マニタ書房はまもなく閉店するらしいという噂を聞きました。
出版不況のあおりを受けて、古本屋さんがどんどん閉店しているのは事実ですが、マニタ書房さんもやはり経営が厳しかったのでしょうか。古本屋をやめてしまったら、とみさわさんは今後どうされるのですか?(和歌山の「ふるほんガール」/38歳)
『街の古本屋入門』
志多三郎
(1986年/光文社文庫)
「隗より始めよ」の精神で始めた
マニタ書房ですが…。
そうなのです。マニタ書房は2019年の3月1日から店内の商品全品半額セールを始めて、3月末日に閉店します。経営状態を心配してくださる声はいくつもあったけど、それは開業した当初からわかっていたこと。それより、長年あこがれていた古本屋をやれて、この6年間はずーっと楽しかったな。
ぼくがどうして古本屋を始めたかというのを、これを機に話しておきましょう。
古本好きの人だったら、誰もが古本屋にはあこがれるもの。それはぼくも例外じゃない。中学生になったあたりから古本屋通いを始めて、いつかは古本屋をやってみたいと思うようになった。とはいえ、実際にその道を目指すことはなく、漫画家にあこがれて挫折し、イラストレーターにあこがれて挫折し、いったんは製図士になったけど、作家にあこがれてライターに転職し、途中からゲームデザイナーになった。寄り道してばっかりの人生。
2009年に思うところあってゲームの世界から身を引いて、もう一度、ライターとして再出発を試みた…のはいいけれど、全然仕事がこなかった。悪いことは重なるもんで、その2年後に妻を病気で亡くした。さーて、どうしたもんかと道に迷っているときに、昔あこがれた古本屋になる夢を思い出す。
でも、その道に進むための修行など積んでないし、古本集めが趣味だっとは言っても、商売ができるほどの蔵書量はない。そんなとき、ずいぶん前に読んで本棚の隅においてあった志多三郎さんの『街の古本屋入門』を再読して、次の一文に目が止まった。
なに、気にする必要はないというのが筆者の結論である。「隗(かい)より始めよ」との言葉どおり、おもい立ったら実行に移せばよろしい。本を知っているにこしたことはないが、知らなければ知らないだけ勉強する愉しみがある。年齢がいくつになっても、新しいことを学ぶことにはある悦びが伴うものだ。
(P.93より)
この言葉に背中を押された。どうせ仕事がないなら古本屋のオヤジになろう。そこで店番しながら、少しずつライターの仕事を増やしていけばいいじゃないか、とね。
それで、日本中を旅して変な古本を集め、それを棚に並べるスタイルの店を始めた。「神保町に変な古本屋ができたぞ」ということで、いろいろな雑誌が取材に来てくれた。それをきっかけに、古本に関するエッセイや、書評の仕事が来るようになった。
古本屋としては最後までずっと赤字だったけど、ライターとしてはまた生活できるようになっていったのだから、マニタ書房を始めたことは無駄じゃなかった。この連載「古本珍生相談」も、神保町に店を構えていたからこそ、できた仕事と言えるだろう。
6年間のご愛顧に感謝!
飽きっぽい男は、次に何をするのか?
と、前半で語ったような経緯は、実は2016年に出版した拙著『無限の本棚』(アスペクト刊。2018年に筑摩書房より文庫化)に全部書いてある。
では、夢だった古本屋を始めることができて、やっと各方面に店名が知られるようになってきたマニタ書房を、ここにきてなぜ閉店してしまうのか? なんでだろうねえ、と自分でも思ったりするんだが、『無限の本棚』を読み返してみたら、自分の言葉ですでに答えが書いてあった。
ぼくは昭和三十六年、東京に生まれた。 それからの五十四年間、常に何かを集めてきた。
母から小遣いをもらうと、すぐに使ってしまう子供だった。
買い食いをすることもあったが、たいていは漫画を買ったり、ミニカーを買ったり、「仮面ライダースナック」を買ったりして消費した。
働くようになってからも、収入があるとすぐに趣味のものを買ってしまい、浪費に明け暮れていた。貯金なんてろくにしたことがない。
買い集めたものを後生大事に保存しておくような性格ならば、いまごろは町田忍さんも驚く昭和の大衆文化の博物館ができあがっていたことだろう。
あいにくぼくは飽きっぽく生まれてしまった。どれだけ集めても、ひとたび飽きると一気に興味を失い、また次のターゲットを探しはじめる。
(P.319より)
漫画集めに飽きて、ジッポー集めに飽きて、カード集めに飽きて、仕事にも飽きる。そう、古本屋にも飽きちゃったんだな。もう十分楽しんだ。そろそろまた、次の何かを始めたくなったんです。
『無限の本棚〈増殖版〉』
とみさわ昭仁
(2018年/ちくま文庫)
さて、次は何をやるんだろう? それはまだわからない。幸い、文章を書くことだけは飽きていないし、むしろ、ここ数年はどんどんおもしろくなってきている。だから、ライターとして新しくおもしろいことをやれたらいいね。
飽きっぽくて、何も立派なことなど成し遂げていないぼくが、他人様の人生の悩みにお答えするなんて、オコガマシイ連載を6年間も続けさせてもらえたことに感謝します。とみさわ昭仁のこれからの人生、いや“珍生”にご期待ください。近いうちにまたナビブラ神保町でお会いしましょう!
悩み事があったらどんどん聞いてください。
本は"人生の知恵と経験"が詰まった宝庫だから、
なにかしらの回答が引き出せると思います!
お悩み相談はこちらまで!→ navibura@fusansha.co.jp
- 第66回:12月のお悩み(和歌山の「ふるほんガール」/38歳)
- 第65回:11月のお悩み(これでも花も恥じらうOL。彼氏はいます、念のため/27歳)
- 第64回:10月のお悩み(精密機器メーカーの男性エンジニア/29歳)
- 第63回:9月のお悩み(『Stereo Sound』を愛読していた会社員/50歳・男性)
- 第62回:8月のお悩み(たまに金縛りに遭うサラリーマン/39歳)
- 第61回:7月のお悩み(神保町古書店勤務/“力仕事はつらいよ”の31歳・女性)
- 第60回:6月のお悩み(ナカよりソトを愛するホッピー女子/28歳)
- 第59回:5月のお悩み(バーモントカレーしか食べられない会社員/28歳)
- 第58回:4月のお悩み(地方公務員の戸籍課担当女性/29歳)
- 第57回:3月のお悩み(設計事務所勤務の建築士の男/43歳)
- 第56回:2月のお悩み(某区役所勤務の自称・実直な男性/52歳)
- 第55回:1月のお悩み(本の積み下ろしで腰が痛い大手書店員/29歳)
- 第54回:12月のお悩み(残業多しの印刷営業マン/34歳)
- 第53回:11月のお悩み(あたしもカビ臭いOL/36歳)
- 第52回:10月のお悩み(大人恋愛≠ヘうまくやらなくちゃ!の次長/43歳)
- 第51回:9月のお悩み(竹橋・気象庁近くの会社勤務OL/28歳)
- 第50回:8月のお悩み(干し豆腐料理も必ず注文する会社員/41歳・男性)
- 第49回:7月のお悩み(昼酒大好きフリーライター/55歳・男性)
- 第48回:6月のお悩み(「お酒はビールだけ」の独身OL/33歳)
- 第47回:5月のお悩み(精密機器メーカー営業職/31歳・独身男性)
- 第46回:4月のお悩み(生まれてこのかたウソをついたことがない大ウソ人生の主婦/36歳)
- 第45回:3月のお悩み(中堅商社勤務のサラリーマン/男性/33歳)
- 第44回:2月のお悩み(ケツの穴が小さい生保の部長/男性/51歳)
- 第43回:1月のお悩み(栃木のネコネコ屋/女性/29歳)
- 第42回:12月のお悩み(聖母になんてなりたくない/33歳・主婦)
- 第41回:11月のお悩み("男気"度0%の中小企業サラリーマン/31歳)
- 第40回:10月のお悩み(来春の大学受験生/女子高校生18歳)
- 第39回:9月のお悩み(週末ハムサンド/28歳・女性)
- 第38回:8月のお悩み(馬超五十五/59歳)
- 第37回:7月のお悩み(普段はいい夫・いい父親のストレス山積みサラリーマン/42歳)
- 第36回: 6月のお悩み (47歳・奇食番外地/まだ部長補佐)
- 第35回: 5月のお悩み 38歳/本来、怠け者のサラリーマン
- 第34回: 4月のお悩み 42歳/メーカー総務部勤務
- 第33回: 3月のお悩み 42歳/無垢な季節さん
- 第32回: 2月のお悩み 49歳/未婚のミッコ
- 31回: 1月のお悩み 29歳/ララ・クロフトにはなれない女
- 第30回: 12月のお悩み 34歳/「読書虫」の女
- 第29回: 11月のお悩み 30代/息子大好きなママ
- 第28回: 10月のお悩み 43歳/自由って誰が言った?フリーランス女
- 第27回: 9月のお悩み ごはんは1人で食べたい男/大学職員
- 第26回: 8月のお悩み 30代/来月からフリーライターの元編集者
- 第25回: 7月のお悩み 30歳一歩手前/イベント企画会社のマネージャー
- 第24回: 6月のお悩み 19歳/麺カタ脂少なめニンニク味玉
- 第23回: 5月のお悩み (31歳/結婚と起業の間で悩むサラリーマン)
- 第22回: 4月のお悩み (33歳/そば子)
- 第21回: 3月のお悩み (40歳/ライター)
- 第20回: 2月のお悩み (37歳/女事務員)
- 第19回: 1月のお悩み (38歳/千代田区の某課長)
- 第18回: 12月のお悩み (44歳/妻子ありのフツーの会社員)
- 第17回: 11月のお悩み (41歳/日本語にうるさい"昭和な女"より)
- 第16回: 10月のお悩み (41歳/独身のふつうの会社員)
- 第15回: 9月のお悩み (48歳/友達自慢の父)
- 第14回: 8月のお悩み (30歳/女性/OL)
- 第13回: 7月のお悩み (いろいろ焦るアラサーちゃん/女性)
- 第12回: 6月のお悩み (気ままに見える自営業/40歳・男性)
- 第11回: 5月のお悩み (新婚ホヤホヤのOLさん/35歳)
- 第10回: 4月のお悩み (中間管理職なんてくそくらえ!男性/38歳)
- 第09回: 3月のお悩み (“これもカード地獄!?”のOLさん/28歳)
- 第08回: 2月のお悩み (ハクビシン/34歳)
- 第07回: 1月のお悩み (ITブラック企業勤務/34歳)
- 第06回: 12月のお悩み (人材開発/39歳)
- 第05回: 11月のお悩み (電設関係/31歳)
- 第04回: 10月のお悩み 婚約者も仕事も"彼氏"も大事(会社員/33歳)
- 第03回: 9月のお悩み "ハマちゃん"なお気軽サラリーマン(会社員/42歳)、あまちゃん(独身OL/33歳)
- 第02回: 8月のお悩み あんこちゃん(主婦/29歳)
- 第01回: 7月のお悩み M山U次郎さん(会社員/54歳)
- 2021年年月
「あぶらが好きさ」 - 2017年11月
「ナビブラ特集アーカイブ」 - 2015年10月
「第56回「東京名物・神田古本まつりへ行こう!」」 - 2015年09月
「残暑は汗をかいてブッ飛ばせ! 食べ比べ 酸辣湯麺」 - 2015年08月
「人の流れが神田錦町へ続々と! 憩いの広場、テラススクエアへ行こう!」 - 2015年07月
「祝8周年! 末広がりの面白さ 神保町花月」 - 2015年06月
「これなら雨の日が待ち遠しい!? 雨の日グッズ&サービスのあるお店」 - 2015年05月
「チャレンジャー達を応援! 新店舗さん、いらっしゃ〜い!」 - 2015年04月
「祝開店60周年! やっぱり「さぼうる」でサボるのが好きっ!」 - 2015年03月
「神保町の新トレンド! これってマジかぁ!? “缶バッチな人”増殖中!」 - 2015年02月
「乙女心をくすぐるスイーツパンの誘惑 メロンパン食べ比べ!」 - 2015年01月
「1年のはじまりは、ズルズルすすって、クイクイ飲もう! 新春は蕎麦屋で日本酒」